否定的な感情や屈辱感、フラストレーションを刺激しナラティブに訴える

 2013年〜2016年にケンブリッジ・アナリティカがBrexitやトランプ大統領誕生に向けて行なった認知戦の基本レシピが「マインドハッキング」に描かれている。SNSから個人データを入手し、心理プロファイルを作成し、その行動を配偶者よりも正確に予測し、神経症的か自己陶酔的な個人をターゲットに個別にメッセージを流して不安と怒りを煽り、過激派グループを生み出していくというものだ。

 10年前に編み出されたこのテクニックは、本著においても有効な手段として別の言葉で説明されている。現状に不満を持つ人に対して、相手の感情に、ファクトではなくナラティブに訴える、効果的なのは、否定的な感情や屈辱感、フラストレーションを刺激すること、既存システムを批判し、“正義”を提示することだ。

 アメリカでは特に白人男性の貧困層であり、日本では特に氷河期世代の非正規雇用で苦労してきた男性等、だろう。また、多くの日本人にとっては第二次世界大戦における敗戦とアジア諸国に対する贖罪も、国民感情を刺激するテーマだ。

「役にたつ馬鹿」

 工作する側が利用する存在として、繰り返しでてくるのが、対象国攻撃に「役にたつ馬鹿」(useful idiot)だ。

 福島の原発でのIAEAが安全基準に合致するとした処理水を汚染水として批判する韓国の左派政党や、日本国内の反原発の過激な運動家は中国にとってプロパガンダに加担してくれる「役にたつ馬鹿」だ。

 1970年代、ソ連は西側諸国の核開発能力を停滞させ、ロシアの化石燃料に依存させるため、国際環境保護団体を支援していたと解説されているが同様の構造だ。国の方針について賛成反対を健全に議論することは良いのだが、外国勢力に悪用され国益を損なっていないか、認知戦の世界ではその視点が必要だ。