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猛暑が続く日本列島は、一方で本格的な水害が懸念される時季になってきました。8月に入ってからは線状降水帯の出現により、九州地方で大雨特別情報、北陸地方で土砂災害警戒警報が発令されるなどしています。そうした災害に備え、命を守る武器の1つが「ハザードマップ」です。ただ、ハザードマップという言葉を耳にしたことはあっても、実際、どのように使えばいいのかは案外、知られていないかもしれません。ハザードマップのそもそもと使い方をやさしく解説します。

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都市部のハザードマップ、日本が世界初

 ハザード(Hazard)は「危険」「危機」を意味する語句で、ハザードマップとは自然災害による被害を予測し、その被害範囲や避難場所などを地図上に示したものです。洪水・内水・土砂災害といった「水害」関係のほか、「火山」「地震」など災害の種類ごとに国や自治体が作成・公表します。

 有珠山噴火(2000年)や東日本大震災(2011年)などを契機として、住民が普段から災害のリスクを理解し、適切な避難行動を取るための情報として整備が進んできました。

 もっともハザードマップにも古い歴史があります。

 国土交通省や認定NPO法人「防災・減災サポートセンター」の資料などによると、日本のハザードマップ作りは都市部に大きな被害をもたらした1964年の新潟地震をきっかけに始まりました。これを機に東京都は震災対策条例を制定。1970年代前半、地震に関する危険度調査を地域ごとに実施していきます。

 その結果は地図に落とし込まれ、1975年に公表されました。不動産価格への影響や社会の混乱を危惧する声もあったものの、これが都市部における世界初のハザードマップだったとされています。

 火山噴火に関するハザードマップは1978年以降、火山ごとに順次整備が進められ、1983年には「駒ヶ岳火山噴火地域防災計画図」が北海道大学の研究者によって完成しました。これが火山ハザードマップの第1号とされています。地図には「軽石流予想区域」「岩屑流予想区域」「降灰深度分布」などが示されていました。

 一方、水害については、その危険をいかにして防ぐかが早くから国の防災計画の中心課題となってきました。1949年には「洪水、雨水出水、津波又は高潮に際し、水災を警戒し、防御し、及びこれによる被害を軽減し、もつて公共の安全を保持する」目的の水防法が制定。1955年には洪水予報や水防警報を発出する仕組みも整います。

 日本は水害大国でもあります。昭和から平成にかけ、豪雨による河川氾濫や浸水、土砂崩れなどの災害が頻発。各地で大きな被害が発生しました。そして1999年には死者39人を出した「広島豪雨」が起き、これを教訓にした土砂災害防止法が2001年に施行されました。

 そうした中で焦点になったのが、「被害想定をいかに的確に住民に伝え、命を守る行動を取ってもらう施策をどう実現するか」でした。その結果、2005 年には水防法や土砂災害防止法が改正され、ハザードマップの作成・配布などが国や自治体の義務となったのです。