AIエージェント時代が到来しようとしている(筆者がWhiskで生成)
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 ITの世界は日進月歩だ。新しい技術や製品、キーワードが登場したかと思うと、すぐに別の概念に注目が集まる。最近でも、ChatGPTがリリースされた2022年11月末(わずか3年前だ)まで、「生成AI」という言葉は専門家しか知らなかった。

 しかし現在では、皆が生成AI系の製品やサービスを当たり前のように使っている。そしてすでに、生成AIの次に大ブームとなると目されている技術が登場している。それこそが「AIエージェント」、あるいは単に「エージェント」と呼ばれる存在だ。

 実際、この単語を目にしない日はないと言っても過言ではない。もう自分の会社で導入検討が始まっている、あるいは導入されたという方も多いだろう。

 そもそもAIエージェントとは何なのか、そしてそれになぜ注目が集まり、どう社会を変えていこうとしているのか、3回に分けて解説しよう。

「エージェント」とは何か

 簡単に言ってしまえば、AIエージェントとは、ユーザーに代わってさまざまなタスクをこなしてくれるアプリケーションだ。ただ、これだけだとコンピューター上で動くあらゆるアプリケーションが該当してしまう。それでは、いま注目されている「AIエージェント」は何が違うのだろうか。

 本題に入る前に、そもそもエージェント(Agent)という言葉はどういう意味なのかを整理しておきたい。

 エージェントの語源はラテン語の「agere(行う、動かす)」と、その派生語である「agens(行為者)」で、基本的な意味は「何らかの行為を実行する者」になる。

 一般社会では「(何らかの業務を)顧客の代理で行う人」の意味で使われることが多く、たとえば「不動産エージェント」と言えば物件の売買・賃貸を仲介する不動産取引の専門家、「芸能エージェント」と言えば俳優や歌手、モデルなどの契約交渉や出演交渉を行う代理人を意味する。日本語でも「エージェント」と言うと、こうした人々を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

 この言葉はITの世界でもAIの普及前から使われてきたが、それは「ユーザーやシステムの代わりに特定のタスクを実行するプログラムやプロセス」という意味においてだった。

 たとえば、ジョブスケジューラー(プログラムや処理の実行時刻や順序を自動管理するアプリケーション)やメール転送プログラムなどがエージェントの名で呼ばれている。こうしたエージェントには高度な判断機能はなく、「定められたルールやスケジュールで動く代行プログラム」がほとんどだった。

 要するにエージェントとは、「ユーザーの代理で何かをしてくれる存在」ということだ。ITに関して言えば、その「何か」はこれまで限定的なタスクでしかなく、人間のエージェントのように一定の業務全体(売買契約を締結する、より良い案件を獲得してくるなど)を任せることは難しかった。

 ところが、近年のAI技術の進化により、機械に任せられるタスクの範囲が一気に拡大した。そうしたエージェントが「(AI)エージェント」として切り出され、注目が集まっているという次第だ。