広告を「見る」のが人間だけではなくなったとしたら、インターネット広告はどうなる?(筆者がWhiskで生成)
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
レモン市場問題、あるいはレモン市場の法則という言葉を聞いたことがあるだろうか?
これは市場で起こり得るトラブルの一種で、その市場で売られている商品について、売り手と買い手の間で情報に差がある場合に発生する。
中古車市場を例にしよう。中古車の売り手は、商品である車の状態(事故歴があるかやどれくらい使われたかなど)をよく知っている。しかし買い手は、見た目だけでは良い車なのか悪い車なのかが分からない。このように情報に差があることを「情報の非対称性」という。
市場に並ぶ同種類の商品の中で、品質が低かったり期待通りに機能してくれなかったりするもの、すなわち「ハズレ」の品を、英語の俗語で「レモン」と呼ぶ(逆に「アタリ」の商品は「ピーチ」と表現される)。
中古車市場における買い手は、目の前にある車を「もしかしたらこれはレモンかもしれない」と疑ってしまい、安全策としてどの車にも平均的な価格しか払おうとしなくなる。すると、本当に良い車(ピーチ)を持っている売り手は、「そんなに安く買い叩かれるなら売りたくない」と思い、売るのをやめてしまう。
その結果、市場にはレモンすなわち粗悪品ばかりが残り、ますます買い手の信頼が失われていく。こうして市場全体の商品の質がどんどん下がり、取引が成立しなくなって、市場そのものが消えてしまう恐れすらある。
この現象は中古車市場だけでなく、保険や中古家電、賃貸住宅など、売り手と買い手の間で情報の非対称性が存在する市場で起こり得る、極めて重要な問題だ。
実際にこの「レモン市場問題」を1970年に提唱した、米国の経済学者ジョージ・アカロフは、研究が評価されて2001年にノーベル経済学賞を受賞するまでに至っている。
そしていま、このレモン市場問題が、ある分野においてまったく新しい姿で発生するのではないかと指摘されている。その分野とは、インターネット広告だ。