「令和のブラックマンデー」とも呼ばれた日本株の暴落から1年。直近では予想外に弱い米雇用統計が明らかとなり、米経済の景気後退懸念もじわりと広がっています。為替や株価、そして今後の日米の金融政策はどうなるのか。なかのアセットマネジメントの中野晴啓社長が、ソニーフィナンシャルグループ 執行役員・チーフアナリストの尾河眞樹氏に聞きました。2回に分けてお届けします。
※対談の詳細はJBpressの公式YouTubeチャンネル「INNOCHAN」でご覧いただけます。収録日:2025年8月5日
後編:ドル円は再び160円時代に、世界のマネーは米国一極集中から分散へ
暴落の背景に「円キャリー取引」、実質金利差が動かす為替
中野晴啓・なかのアセットマネジメント社長(以下:敬称略):「令和のブラックマンデー」と呼ばれた、日経平均株価が1日で4000円以上も下落した記録的な日から1年が経ちました。当時をどう振り返りますか。
尾河眞樹・ソニーフィナンシャルグループ執行役員・チーフアナリスト(以下:敬称略):当時は日米の金利差が注目され、低金利の円で借り入れして高金利のドルなどの通貨で運用する「円キャリー取引」が非常に盛んでした。IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)のレポートによれば、暴落前にはグローバルで約40兆円規模の円キャリーが積み上がっていたというデータもあります。それが当時、米国の雇用統計の弱かったことなどをきっかけにドル安・円高が進行し、一気に「円キャリー取引」の巻き戻しが起きました。
もちろん、為替は金利差だけで動くものではなく、経常収支や貿易収支などさまざまな要因が絡んでいます。ただ近年は、インフレ率を差し引いた「実質金利差」を見ながら予測することが多くなりました。
背景には「リーマン・ショック」や「コロナ・ショック」を経て、日米欧の中央銀行が過剰に供給したマネーが十分に回収されていないことがあります。その過剰なマネーが当時ホットだった「円キャリー取引」に集中していたため、大きく巻き戻されたのはかなりのマグニチュードとして為替相場、そして株式相場に影響を与えたと考えられます。
中野:(大幅な規制緩和により市場の通貨量が経済規模を大きく上回る)「過剰流動性」が依然として大きい以上、今後もキャリートレードがマーケットの大変動を引き起こす可能性はあります。日銀は政策金利を0.5%に上げましたが、名目金利差だけでも日米で約4%あります。日米の金融政策をどう見ていますか。