マスク氏は7月5日に「アメリカ党」の結成を発表した(右はマスク氏の人形、写真:ロイター/アフロ)

極右色、反移民、極端なリバタリアニズム

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 ドナルド・トランプ米大統領との同盟関係が崩れた富豪のイーロン・マスク氏(54)が、新政党「America Party」を立ち上げた。

 自らが所有するソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)で新しい第三政党を設立し、共和党と民主党の二大政党制に挑戦すると宣言した。

 トランプ氏とマスク氏はついこの間まで親密な関係にあった。

 米メディアは2人の関係を「Bromance」(男同士の恋愛関係)とまで呼んで皮肉った。

「海千山千の2人にとって都合のいい、仮初め(かりそめ)の同盟関係」(米主要メディアのジャーナリスト)だった。

 マスク氏は、2024年大統領選挙でトランプ氏(親トランプ候補も含む)に2億7700万ドルの政治資金を提供する一方で、「X」を使ってキャンペーン活動を全面的に支援、トランプ勝利に大きく貢献した。

Elon Musk spends $277 million to back Trump and Republican candidates - CBS News

 トランプ政権発足と同時に、トランプ氏の右腕となって連邦政府の支出削減を進める「政府効率化省(DOGE)」を率いた。

 ところが、トランプ氏が打ち出した「大きくて美しい法案」は、DOGEの削減案を無視。

 マスク氏はDOGEを退任した後、トランプ批判に転じた。

 これに対しトランプ氏は、これまで便宜供与してきたマスク氏所有の電気自動車(EV)「テスラ」や、航空宇宙関連企業「スペースX」が提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」などへの便宜供与の停止などをちらつかせ、さらに南アフリカ出身のマスク氏を国外追放するとまで言い出した。

 一時、マスク氏はひるんだ。相手は権力を握った大統領だ。しかも、マスク氏は政治はずぶの素人だった。

参考:政治にはド素人のマスク、仕掛けた対トランプ戦争で無残な返り討ちに 裏切者に容赦なく、マスク企業との政府契約は次々と打ち切りへ(1/3) | JBpress (ジェイビープレス)

 だが、これで諦めるマスク氏ではない。背後には同僚のシリコンバレーの億万長者が控えている。

 何せマスク氏は全米一の富豪。それにテスラ、スペースリンク、今や既成メディアを凌駕するSNSの雄「X」を所有する。

 カネでトランプ氏を大統領にしたという自負心もある。

 そこで、今度は連邦議会に自前の議員を送り出すという大胆な決断をしたのだ。

 そのために新しい政党を立ち上げた。その名も「America Party」(アメリカ党)だ。

 この党名で全米十数州の上下両院選挙区に候補者を立て、上院2から3議席、下院8から10議席を獲得するという皮算用である。

 ただ、「第三政党」には法的にいろいろと制約がある。

 例えば、ジョージア州のように上下両院選挙に民主、共和両党候補以外の候補者が立候補するには、2万7000人の推薦人を必要とする州もある。

 また党名に「America」と文字をつけることを禁じている州もある。

 この壁を打ち破るにはカネが必要だ。この点はマスク氏はクリアできると見ている。