ナチスが先鞭をつけた「合成オピオイド」

 さて、この第1次大戦中の1917年に、ドイツで「オキシコドン」が合成されたのを皮切りに、より副作用の低い、モルヒネ代用の「オピオイド」の開発が進みます。

 野戦病院では鎮痛剤が大切な役割を果たしますが、ヘロイン中毒だらけになってしまっては戦争になりません。

 ということで、よりマイルドなオキシコドンがアヘンに含まれる「アルカロイド」から合成されました。

 ところが、さらに20年以上後の1939年、やはりドイツで開発された「ペチジン」は、アヘンやモルヒネからの半合成ではなく、完全に人工的に合成されたのです。

 というのは、当時もドイツ(ナチス政権下)は、今度は第2次世界大戦の方でですが、戦争のさなかでしたからグローバルに物流が制限されていたわけです。

 そこで純粋な「合成オピオイド」が誕生した。歴史の皮肉と言えるかもしれません。

 このペチジンをもとに、1959年にベルギーのパウル・ヤンセンが開発したのが「フェンタニル」でした。

 ペチジンもフェンタニルも無極性、つまり油性の分子であること、さらに、「フェンタニル(分子量336)」は「ヘロイン(分子量369)」よりも軽い分子であることなどが挙げられるでしょう。

 ここでもう一つのポイントは「ケシ」など生物由来の原料が不要で、化学物質だけで合成可能であることです。

 フェンタニルはモルヒネよりも、またヘロインよりもはるかに細胞膜の表面タンパク質「オピオイド受容体」と結びつきやすくなっていました。

 そして、オピオイドが大脳皮質や視床などの中枢に作用すると、外部からの侵害刺激の伝達が直接ブロックされるため、痛みを感じなくなる。

 つまり、著しい「鎮痛効果」が発揮されます。

 それだけならよいのですが、同時に徐脈や縮瞳、消化管運動の減少などとともに「多幸感」などがもたらされ、これが強い「習慣性」「依存性」をもたらしてしまう。

 中毒が慢性化すると、薬の効果が切れることで全身に激しい痛みを感じるなど、悪質な副作用が出、薬をやめられなくなってしまう。

 用量の度を超せば致死量に到達、命を失いかねません。