トランプ政権はカナダやメキシコをスケープゴートにしている
ルマスターズ:主に3つの治療薬があります。1つはナルトレキソン(naltrexone)です。この薬は治療薬としての効果があまり強くありません。
2つ目はブプレノルフィン(buprenorphine)という薬で、こちらは医師からの処方で使用可能です。
3つめがメサドン(methadone)という治療薬です。これは最もオピオイド治療には効果があるのですが、メサドンもまた依存性が強いということで、米食品医薬品局(FDA)や米麻薬取締局(DEA)によって厳しく規制されています。
コロラド州のフェンタニル法案は刑罰の強化だけではなく、オピオイド使用障害の治療薬の提供も義務付けました。ただ、コロラド州にある46カ所の刑務所のうち、メサドンを処方できるオピオイド治療プログラムを備えているのは11カ所の刑務所だけです。
施設によってはすべての薬剤を提供していないか、処方箋を持っている人や妊婦など特定の集団にのみ薬剤を提供しています。この点、カナダではメサドンに対する規制はアメリカほど厳しくありません。
──「アメリカに不法移民やフェンタニルを流入させている」という理由で、トランプ政権は2025年3月からメキシコやカナダに対して国際緊急経済権限法(IEEPA)を使った関税措置(メキシコ原産品に対して一律25%、カナダの原産品に25%と、エネルギー資源に10%の関税措置)を発動しています。
ルマスターズ:カナダやメキシコ、フェンタニルの生産国の1つとされる中国も含まれますが、トランプ政権はこうした国々をこの問題のスケープゴートにして、貿易戦争や外交上のカードに利用している印象があります。
実際フェンタニルはこうした国々で生産されて持ち込まれることもありますが、アメリカ国内でも生産されています。オピオイドは医師が処方して合法的に購入できる薬ですし、場所を選ばずに生産施設で非合法に作られる薬でもあるのです。
キャサリン・ルマスターズ(Katherine LeMasters)
コロラド大学アンシュッツ医学部の助教授
2023年、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で疫学の博士号を取得。主な専門は一般内科、副専攻は疫学。地域社会に積極的に関わりながら、大量投獄制度がどのように健康格差を生み出しているかを研究している。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。