薬物使用の非犯罪化に踏み切ったカナダ

──カナダでは、アメリカとは異なる対応をしているという報道もあります。

ルマスターズ:カナダでは、薬物の中毒者を犯罪化・厳罰化するのではなく、行政の目の届く場所でより安全に薬物を使用させることで、中毒や過剰摂取に悩む人を特定し、治療に導きやすくしています(参考資料「ブリティッシュコロンビア州における薬物使用者の非犯罪化」)。

 薬物過剰摂取防止センター(overdose prevention center)という施設があり、そこで薬物を使用できるのです。

 この施設内で死亡した人はまだいません。中毒症状に苦しむ人たちは、非難されるのではなく助けられている、迎えられていると感じる状況で、積極的に治療を受けて薬物の使用をやめることができるようになる。カナダでフェンタニルによる死亡者数が減少傾向にあるのは、こうした対応があるからです。

 実は、アメリカでもオレゴン州やワシントン州は、カナダのように薬物使用に対して非犯罪化のアプローチを取っています。その後、一部は再び犯罪扱いになりましたが、それはカナダのように対応する治療施設などのリソースが整っていない段階で、非犯罪化政策を行ってしまったため、部分的な法律の揺り戻しがあったのです。

 アメリカ全体では、むしろフェンタニルの所持や使用による厳罰化が強化される傾向が進んでおり、2023年には46の州でコロラドと同様の法案が可決されました。フェンタニルを販売して、購入した側がそのフェンタニルを使用して死亡した場合、販売した側が殺人罪になるケースなども州によっては見られるようになってきました。

──アメリカは、カナダのように薬物中毒の人々に適切な治療を与えることができていないということですが、そうした治療を提供することはそんなに難しいのですか?

ルマスターズ:やや複雑な話になりますが、そこにはオピオイドの使用障害の治療に使われる治療薬をめぐる規制の問題があります。