将棋の第83期名人戦7番勝負第5局で永瀬拓矢九段(右)を破り3連覇した藤井聡太名人 写真/共同通信社

(田丸 昇:棋士)

藤井の驚異的な強さ

 藤井聡太七冠(22)は2020年7月に最年少記録の17歳11カ月で初タイトルの棋聖を獲得して以来、現在まで計29期のタイトルを保持している(6月29日時点)。23年10月には全冠制覇の「八冠」(竜王・名人・王位・王座・叡王・棋王・王将・棋聖)の偉業を達成した。タイトル戦で敗退したのは、24年6月に叡王戦で伊藤匠七段(当時)に2勝3敗で奪取されたのみだ。

 藤井の驚異的な強さを改めて痛感するが、番勝負の成績にも注目したい。

 七番勝負では、4勝0敗が5回、4勝1敗が8回、4勝2敗が3回。五番勝負では、3勝0敗が5回、3勝1敗が7回、3勝2敗が1回。

 藤井はこのように大半のタイトル戦で対戦相手を圧倒している。最終局にもつれ込んだのは、2021年の叡王戦(豊島将之叡王から奪取)と、前述の24年の叡王戦(伊藤七段に敗退)の2回だけである。

 タイトル戦の全国各地での対局場はあらかじめ決まっていて、最後の方だと勝負が決着して行われないことがある。対局場のホテル、旅館や地元の将棋関係者が準備万端整えても、対局は残念ながら実現しない。ちなみに、棋戦主催者からのキャンセル料は原則としてないという。ただ来期以降に早めの対局に設定されるなど、配慮されるようだ。

 しかしこの近年、藤井がタイトル戦で行われなかった対局場に出向くことがよくある。対局予定日に大盤での自戦解説や祝賀会が開かれることで、地元の将棋ファンは大歓迎だ。藤井もタイトル獲得の喜びを実感できる。