ソリッドワークス・ジャパンが主催するイベント3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2023 IMAGINE~発想する次の時代に向けて~』が、12月1日に虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区)で開催される。AIなどの革新的な技術と人間の発想力の融合は、製造業にどのような未来をもたらすのか。基調講演のスピーカーを務めるきづきアーキテクト株式会社代表取締役の長島聡氏は、3つの可能性を示唆する。

売れるものより作りたいものを作ってはいないか


 戦後日本の経済成長を支えてきた製造業は、現在もGDPの約2割を支える基幹産業でもある。その分野は輸送用機械や一般機械、電気機器など多岐にわたる。どの分野でも、労働人口の減少による人材不足とそれに伴う技術承継の問題、脱炭素対応やDXなど、経営者が乗り越えるべき課題は山積しているが、きづきアーキテクト株式会社代表取締役の長島聡氏は、日本の製造業にはまだまだ底力があるという。

きづきアーキテクト株式会社 代表取締役
長島聡氏

「素材開発や金属加工に代表される多様な要素技術は、今も日本の製造業の強みです。海外メーカーのデバイスが、日本メーカーの部品ばかりで作られていることも珍しくありません」

 しかし、せっかくの技術を積極的には売り込まず、声がかかるのを待っている企業が、特に中小企業に多いという。

「見つけられるのを待っている状態です。価格も、コストを積み上げ『これくらい利益が出れば良し』といった決め方をしています。一方で海外の部品メーカーには、提案力を武器に強気の価格付けをしているところもあり、こうしたところから利益の差が生まれています」

 その違いは、技術力の高さと探究心の強さから生まれている可能性がある。

「今作れる製品をいかに高く売るかを考えるよりも、技術を極めたいという思いが強いのでしょう。ただ、高い技術力で克服すべき無茶なお題を待っているだけでは下請けに甘んじることになり、何かしらの環境変化で受注量が減ると、経営が立ち行かなくなる可能性があります」

 そうした未来を回避するには、経営者が外へ出ていくべきだと長島氏は言う。長島氏が理事を務める一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会では、データドリブンな経営者を育成するための『ファクトリー・サイエンティスト育成講座』を開催している。そこに集まるのは、さまざまなバックグラウンドと強みを持った経営者やエンジニアたちだ。

「5日間の日程を終えると、自社工場のIoT化や、IoTそのものをビジネスにすると決断する人もいますし、互いに工場訪問をする約束をしているケースも出てきたりしています。“納品先と同僚以外の人”と会って刺激を受けることが、現状打破のきっかけになるのです」

 では、忙しい経営者はそのための時間をどのようにつくるのか。長島氏は、AIなど新技術の導入によって時間を捻出すべきだという。

「どこに」「どのように」AIを使うかは何をコアにするかで決まる

「製造業の現場でAIに期待できることは、まず、人間の時間を捻出することです。人間にとって非効率な業務をAIに任せることで得た時間を、人間は、他者との交流など新たな発想を得るために使うことができます。これは、すべての人がトライすべきAIの使い方でしょう」

 長島氏はあと2つ、製造現場でAIにできることがあるという。ひとつは、アクチュエーターとしての活用。人間には不可能なスピードでの制御や精密な制御をAIに代行させるという考え方だ。

「そして最後のひとつは、メカニズムを捉えることです。かつては、人間が長い時間をかけて何度も試行錯誤をすることで把握していた設計や製造のメカニズムを、AIによる高速で大量のトライアルから人間が見出すことができます」

 AIを使えば設計や製造そのものも自動化できそうだが、長島氏はそれには疑問が残ると言う。

「生成AIを使って設計をすることもできるでしょう。しかし、それでは受け身になってしまい、進化が見込めません。設計力が自分たちのコアだと考えるのであれば、設計についてはAIに任せきりにするのではなく、人間の発想を元に多くのことをこなさせて、その結果をまた新たな発想の参考にするべきです。どこをAIに任せどこを人間が担うのか、つまり、どの部分ではAIの消費者となりどの部分ではAIへの供給者になるかを考えることは、その会社のスタンスを決めることにもつながります」

 メカニズム把握のためのAI活用は、今、多くの製造現場で課題となっている職人技の伝承での効果も期待できる。

「かつては『背中で学べ』という匠も多くいましたが、今は、自分の技術が継承されないことを不安に感じている匠の方が多いでしょう。ただ、匠と呼ばれるレベルに達した人と、そこから何かを学ぼうとする人とでは経験値が圧倒的に違います。だから継承が難しいのですが、匠の技をAIによって可視化し形式知化する、学ぼうとする人の側がAIを活用して経験値を少しでも積むと、発射台そのものが目標に近くなり、学ぶ難しさが異なります。藤井聡太さんがあれだけ強いのも、AIと十分に対局しメカニズムを把握した上で、人と向き合っているからでしょう」

AIの適切な導入が日本型イノベーションを加速する

 長島氏はかねてから「和ノベーション」を提唱してきた。「和ノベーション」とは、日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」を組み合わせた造語で、日本型オープンイノベーションを意味する。AI導入によって和ノベーションが加速すれば、多様化する社会に対して、たった一つではなく、多様な正解を提供できる未来が訪れるかもしれない。

「海外、特に欧州では、一人の天才が描いた未来に全員でまっすぐに進んでいくようなビジネスが多く見受けられます。だからこそ生産性も高いのですが、それがもたらすのは画一的な商品やサービス、そして未来です。一方で日本は生産性が低いと言われますが、それは、みんなが知恵を寄せ合って考えながら歩んできたからではないでしょうか。そうであるならば、その生産性の低さは決して悪いことではなく、多様性やウェルビーイングといった観点からは、むしろ、歓迎されるべきことではないでしょうか」


 12月1日開催の3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2023 IMAGINE~発想する次の時代に向けて~』で長島氏は、『製造業の未来~AI×和ノベーションが切り拓く新たな道~』と題した基調講演を行った。ここでは、長島氏だから知り得たAIを活用した和ノベーションの事例を数多く交えながら、未来の製造業のあり方を見通せるご講演を行った。アーカイブ配信を2024年1月31日まで期間限定でおこなっている。ぜひご視聴してみてはいかがだろうか。


■アーカイブ配信こちら

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