免許証も保険証も持たず、給料は現金手渡しの生活

 仲間と散り散りになる直前、桐島は仕送りがあったと金融機関で金を下ろし、お金に困っていた宇賀神にも融通していた。宇賀神が後に語っているように、爆弾犯、指名手配犯として、世間の人が記憶している桐島は実は優しさの人であったようだ。

 やがてその宇賀神が逮捕され、その18年後に出所してからも、それでもなお桐島は隠れ続けていた。工務店に勤務し、毎日、判で押したような生活を繰り返す。映画のフィクション部分で使われる「時代おくれ」の歌詞のように、目立たぬように、はしゃがぬように。

©北の丸プロダクション

 たまにライブのあるバーで飲み、ごくたまに弾けて踊ってみせる。他人とは絶妙な距離感を保ち、そのせいで女性から好かれることも。それでも、幸せにすることはできないからと身を引く。むしろ捕まっていたら、とっくに人生をやり直せていたかもしれない。

©北の丸プロダクション

 彼にとっては、20歳の時から一度も立ち止まらずにきた日々が50年、綿々と続いていたのだろう。免許証や保険証は一切持たず、給料は現金で受け取り、気づいたら70歳になっていた。