縦割りを打破する仕組み

 オーストリア式の運輸連合のもう一つの重要な役割は、公的な公共交通サービスのダイヤの大枠を決め、これを事業者に「発注」する役割である。本来は州政府が行う業務であるが、州政府が決めるのは大枠までで、具体的な発注作業を担う実務部隊として運輸連合がその役割を果たす。

 この発注の話だけでも複雑なので詳細は別の機会に譲るが、州政府が経済・社会・環境の面から「この路線は15分ごと」「この路線は1時間ごと」のように政策的にダイヤの大枠を決める。そのダイヤを運行事業者が実際に走らせられるよう技術的に「翻訳」して、その通りに運行する事業者を入札で募集するのが運輸連合の役割である。

 ごみ回収の日程は行政が決めつつ、実際の回収業務は民間業者に業務委託する例が日本でも多数あるが、感覚としてはそれに近い。

 そしてこの発注と表裏一体になっている第三の重要な役割が、さまざまな縦割り・行政階層ごとの財源からの公的資金と、事業者からあがってくる運賃収入を、会計上すべてをいったんプールして、そこから事業者に再配分する機能である。お金の流れを中心にみたこの構造を示したのが図である。

財源統合の横ぐしとしての運輸連合の機能。行政の各レベルからの様々な名目の財源を統合する(筆者作成)

 この各種公的財源と運賃収入をミックスしたものが運輸連合の収入である。運輸連合が「横ぐし」となって縦割り・行政ごとの財源からのお金の処理をまとめてくれる。

 事業者から見れば、運輸連合を相手として見ておけばよく、いくつもある公的財源に個別に対処する必要がなくなる。したがって、事務処理の手間はかなり軽減する。運輸連合による事業者相手のワンストップサービスといってもよい。

「いったんプールする」というとなんだか不透明な取り扱いに思われるかもしれない。しかし前回掘り下げたように、公共交通は様々な目的で移動する人が「乗合」で使うものである。通院の人だけ、通学の人だけ、レジャーの人だけ…と目的別にサービスを切り分けると、一つ一つの目的ごとでは利用者は少なすぎて成り立たない。

 学校や、福祉予算で運営される施設だって、生徒や利用者がそこにたどり着くすべがなければ存在意義が薄らぐ。

 専用のスクールバスや、福祉施設が独自の送迎サービスを実施する方法もあるが、公共交通がしっかり走っていることで車を持たない人でもアクセスが容易になれば、その方が施設の存在意義は高まる。そして、本来の業務外の送迎をわざわざ自前でやる必要もなくなる。

 そう考えれば、教育予算のような交通以外の財源の一部を公共交通の運営に回すことも理にかなうし、これらを束ねることでこそ「人々をまとめて運ぶ」という公共交通の特性が発揮できる。まさに、公共交通の世界で「餅は餅屋」を具現化しているわけである。