サミット会場内で大きく展示されていたMoiaの自動運転車両(筆者撮影、以下同)
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(柴山 多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)

ワーゲン傘下・Moiaの自動運転車両

 今回は、少し「箸休め」として、2025年6月にドイツのハンブルクで開催された、公共交通に関する世界最大の見本市であるUITP Summit 2025(以下「UITPサミット」)の様子をお伝えしたい。

 近年は毎年開かれている大規模イベントだ。UITPサミットは、世界の公共交通についていま、どんな政策的な議論がなされ、どんな技術が登場しているのかを理解するにはうってつけの場である。

 主催者であるUITPはフランス語のUnion Internationale des Transports Publicsの頭文字をとったもので、日本語にすると「国際公共交通連合」といったあたりである。

 ハンブルクの会場は市内の中心部からほど近い、見本市会場(メッセ)であった。今年の参加者は1万人を超えるという。

ハンブルクは「高架鉄道」と呼ばれる地下鉄・高架鉄道システムと、ドイツ鉄道の近郊列車S-Bahn、バスと船舶が都市公共交通をなす

 UITPサミットは、基調講演やパネルディスカッションといった国際会議形式の部分と、見本市会場に様々なメーカーが最新の自社製品を並べる展示会から主になる。

 まずは「見本市」らしさがふんだんに漂う、展示会の様子を見てみよう。

 鉄道のホールの展示は、ドイツのジーメンス、フランスのアルストム、そしてイタリアのメーカーなどを買収して欧州での存在感を増す日立製作所のブースがとりわけ目を引く。

 ここでは鉄道車両の実物の展示は行わず、各社が提供する主に鉄道の運行管理や電力供給の最適化など、様々なサービスやソリューションの展示が行われている。

 ドイツ鉄道(DB)は鉄道の自動運転に積極的で、ジーメンスなどと共同開発を進める都市近郊鉄道の自動運転は最終日に現場見学として組み込まれており、筆者も見学する機会を得た。

現場見学のドイツ鉄道の自動運転試験車両。専用のシステムではなく無線を使う欧州汎用の鉄道信号規格ETCS Level 3 を用いた自動運転技術開発に特色がある
市内に掲示されたドイツ鉄道の広告。UITPサミットでコンセプト車両のモックアップを展示することを告知している

 展示エリアの中央に大きく陣取っていたのはMoia。同社は自動車メーカーであるフォルクスワーゲンの傘下にあり、ハンブルクを中心にライドプール(ライドシェア)事業を展開している。自動運転車両を用いたDRT(デマンド交通)の展開をもくろむ企業である。

 サミット中に試乗会も行われていたが、大人気で、筆者は順番待ちのまま乗れずじまいとなってしまった。

会場裏で待機する市場用のMoiaの自動運転車