私はオオムギをサンプルとして発芽させたが、コムギなど他のムギ類についても形態はよく類似しており事態は同様である。こうして、これらの土偶のモチーフは「発芽したムギ」であり、これが〈人体化〉の作用を受けて造形されたものであるという推論がここに成立した。

 当該の土偶の形態は「発芽したムギ」に近似しているが、まったく同一なわけではない。土偶には顔のパーツが追加されたり、装飾的な施紋や着彩がなされたり、あるいは臀部の膨らみが新たに付加されているが、まさにこれが人体化という変身(メタモルフォーシス)の原理である。

 さて、形態的な相同性の抽出については、十分に説得力のある検証ができたといえるだろう。では、ここまで見てきたような土偶のモチーフが「発芽したムギ」であるという私の結論は、考古学的事実から見ても妥当なものであると言えるだろうか。

 ここで登場するのが、前著『土偶を読む』において縄文土偶の解読の際に設計された検証スキームである。

 当該の、すなわち新石器時代フィギュアの典型を示す「特異な形態」を有する土偶について調べていくと、非常に興味深い事実が次々と判明した。私が導いた「発芽したムギ」という解読結果は、これまで明らかになっている実際の考古学的事実と見事なまでに整合していたのである。

『世界の土偶を読む』の出版にあわせ、以下の講演会が行われます。
※『世界の土偶を読む』出版記念講演会
2025年7月16日 19:00~@東京科学大学
講演者:竹倉史人

https://peatix.com/event/4457256