本プロジェクトにおいて私が依拠している推論形式は「アブダクション」(C・S・パース)である。「仮説形成」とも呼ばれるアブダクションは、まさに直感的な「知性の閃き(ひらめき)」そのものである。歴史上の重大な発見の多くは、蓄積されたデータから帰納的推論を行うことで導かれたものではない。アブダクションにおいては、まさに閃光のように、その「答え」は探究者の脳裏に最初に開示される

 探究者は、その開示された「答え」がどの程度の妥当性を有しているかを、むしろ事後的に検証することになる。つまり、探究者はデータから「答え」を導くのではなく、逆に「答え」から遡及的にデータを眺めることになる。

 というわけで、アブダクションの閃光に打たれた私は、この謎めいた21体の土偶の正体を明らかにするために、ある植物についてインターネットで検索してみた。そして、ネットショップにその植物の種子が出品されているのを見つけると、さっそくそれを購入した。

幼芽が伸長し、期待していたフォルムが現れた!

 数日後、自宅に種子が届くと、アシスタントの池上に連絡してリビングの一角に撮影用のスペースを一緒に設営した。

 次に、家にあったステンレス製の調理用バットに脱脂綿を敷き詰めて水を注いだ後、そこに数十粒の種子を安置した。数日後に発根が始まり、およそ一週間後、いくつかの種子が発芽を開始した。やがて種子からは幼芽が伸長し、そこには私が期待していたフォルムが現れた。それが図4である。

図4 土偶と発芽した種子

 そして、さらに数日後、バットの上には私が心待ちにしていたあの姿態が形成された。そう、そこには私が思い描いていた通りの「後傾姿勢」が出現したのである(図5)。

図5 発芽とともに出現した「後傾姿勢」

 私は脱脂綿から発芽した種子を取り出して幼根を除去すると、愛猫メイが見守るなか、興奮しながらその構造体=種子を撮影した。すぐに画像をPCに転送してかの土偶の画像と並べてみた。それが図6である。もはや説明は不要だろう。私が購入して発芽させた種子――それはオオムギであった。

図6 人体化される「発芽したムギ」