
およそ1万2000年前からヨーロッパ、西アジア、北アフリカに忽然と出現する土偶(新石器時代フィギュア)は、人間像としては奇妙な姿をしている。両脚がぴたりと閉じられた量感のある下半身、円筒形の上半身、ほとんど造形されない両腕。そしてあまりに不自然な後傾姿勢――。
前著で「縄文土偶とは、植物や貝の精霊像であり、特に炭水化物の精霊像が多くを占める」という新説を唱えた竹倉史人氏が、今度は新著において海外の代表的な先史時代フィギュアの解読結果を発表した。本稿では新石器時代フィギュアに関する研究成果の一部を紹介する。
※本稿は2025年6月に発行された『世界の土偶を読む――コスチェンキの精霊はなぜ30000年前のユーラシアの森で捕縛されたのか?』(竹倉史人著、晶文社)より一部抜粋・再編集したものです。
筆者は2017年より「先史時代フィギュア解読プロジェクト」の研究を行ってきた。ここで言う「フィギュア figure」は「造形された人体型の小像」を意味する語である。日本の縄文土偶も「先史時代フィギュア」の一つということになるが、そのモチーフを解読した研究結果は、すでに『土偶を読む』(2021年、晶文社)において発表した通りである。
そこからさらに研究を進め、縄文土偶と同一の方法論によって分析された、海外の代表的な先史時代フィギュアの解読結果を発表するために書かれたものが『世界の土偶を読む』(2025年、晶文社)である。
興味深いのは、明治期以降において行われてきた日本の縄文土偶研究と、19世紀の欧州で始まった先史時代フィギュア研究が、非常によく似た道筋を辿ってきたという事実である。
欧州の先史時代フィギュア研究はおよそ150年の歴史を有する。文字通り「すべて」の先行研究を読破することは不可能であるが、研究史に残っているという意味での「歴史的文献」については、ここで私はある一つの事実を指摘することができる。それは、先史時代フィギュアの「モチーフ」について考察している先行研究においては――私の知る限りほぼ例外なく――重要な一つのシナリオが忘却されているという事実である。
すなわち、多くの先行研究が「人体を所有するものは、最初から人体を所有するものである」という条件を暗黙のうちに受け入れ、ここからモチーフについての推論を展開している、というものである。その結果、「人体を所有するものには、人体化の作用によって人体を獲得するものが存在している」という事実がすっかり忘却されてしまったのである。
先史時代フィギュアの最大の謎は、その「特異な形態」
「最初から人体を所有するもの」というのは、先験的(ア・プリオリ)に人体を所有している主体を指す。具体的に言えば、それはわれわれ人間であり、さらには想像上の人体を所有する神霊もここに含まれる。
一方、「人体化の作用によって人体を獲得するもの」というのは、後験的(ア・ポステリオリ)に人体を獲得する主体を指している。本書では、ある物体が頭部や手足といった人体のパーツを付加されて表象される事象を〈人体化〉と呼んでいる。