党派を超えて引き継がれる「対中強硬策」

 その後、2020年の大統領選挙で民主党への政権交代がありましたが、基本的な「対中戦略」は引き継がれることとなりました。そして、2022年にバイデン政権がまとめた「国家安全保障戦略(NSS)」でも、中国はロシアと並ぶ主要な競争相手として位置付けられ、対中戦略としてテクノロジーや経済力の面で米国の競争優位を維持するとともに、軍事的な抑止力を強化することが掲げられました。

 そして、最近でも、5月31日にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議で講演したヘグセス国防長官は、「インド太平洋地域が米国の安全保障上最も優先度の高い地域」「中国は同地域で明確な現状変更の意思がある」と発言しています。さらに、「同盟国を中国に支配させない」と明言し、仮に抑止に失敗した場合でも「米国は戦い、決定的に勝利する準備ができている」として、対中強硬姿勢を改めて強調するとともに、同盟国に対して一層の防衛努力を呼びかけました。

 こうしてみると、こと「対中戦略・中国抑え込み策」に関する限り、気候変動問題や移民政策などとは本質的に異なる、政党や会派を超えた米国の「共通認識」であることが分かります。このため、長期的な「対中戦略」の一手段・戦術に過ぎない「トランプ関税」が妥協に追い込まれたとしても、今後も形を変えた「二の矢」「三の矢」が繰り出されることで、厳しい米中対立が継続していく可能性をみておいた方が良さそうです。

ホワイトハウスの放つ「二の矢」

 金融市場が「トランプ関税の妥協」による安心感に浮足立つ一方、トランプ政権の行動に目を凝らしていくと、むしろ対中戦略は厳しさを増しつつあるようにも思えてきます。例えば、中国のファーウェイが開発したAI半導体が話題となっていますが、警戒感を強める米国政府は早速、米国が世界のデファクト・スタンダードを握る「半導体設計自動化支援(EDA)ソフト」の中国への供給を制限する動きを強めています。

 また、今年5月6日に始まったカシミール地方におけるインドとパキスタンの紛争で、パキスタン空軍保有の中国製戦闘機・J10(殲10)がインド空軍所属のフランス・ダッソー社製ラファール戦闘機を撃墜したことが業界関係者の注目を集めています。こうした中国製航空機の能力向上が安全保障上無視できない問題となりつつあることもあってか、米政府は航空機の重要なエンジン部品や関連テクノロジーの中国への禁輸を決めたと報じられています。

 さらに、米商務省は半導体製造に用いられる化学品、精密な兵器の製造に不可欠な工作機械、そして、安全保障上の戦略物資であるブタンやエタンなどについて、対中輸出規制の強化に動いています。

 ちなみに、米通商代表部(USTR)は4月17日に1974年通商法301条に基づき、中国籍および中国製船舶の米国内の港湾への寄港時に追加の入港料を徴収することを決定しましたが、現在もこの措置は撤回されていません。そして、5月30日にピッツバーグで講演したトランプ大統領は、中国が世界市場で圧倒的なシェアを誇る鉄鋼製品とアルミニウムについて、関税を現在の25%から倍の50%へ引き上げることを発表しました。

 こうした足元のホワイトハウスの動きを見ていくと、米中の対立構造はむしろエスカレートしているようにも見えてきます。