市場の狼狽に逆張りする「TACOトレード」
4月2日にトランプ大統領による高率の相互関税の発表をきっかけに大きく調整した世界の株式市場は、4月9日にトランプ政権が「相互関税の90日間の一部発動停止(上乗せ分、除く一律関税)」を決めたことをきっかけに反発に転じました。そして、その後もパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任要求をトーンダウンさせたり、対中関税の大幅引き下げを決めるなど、当初見せていた強硬姿勢を大きく後退させる妥協を繰り返すたびに、株価は大きく反発することとなりました(図表1)。
【図表1:S&P500種指数とVIX指数の推移】

(出所)総務省のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
全世界を相手にした高率の相互関税の発動により、一時は高値から約20%下落して「弱気相場入り」目前まで追い込まれたS&P500種指数でしたが、トランプ政権の度重なる妥協を受けて大きく切り返した結果、年初来のパフォーマンスで一時プラス圏に浮上するまで回復してきました。こうして振り返ると、4月以降の世界の株式市場では、アームストロング氏が指摘する「TACOトレード理論」が有効に機能してきたように思われます。
リベラルな論調が支配的な主要メディアは、トランプ大統領の朝令暮改を捉えて批判的に報じる論調をよく目にします。しかし、今後の相場展開を占う上で重要なのは、党派や政治信条にとらわれず、冷静にホワイトハウスの出方を見極めていくことにあるのではないでしょうか。というのも、トランプ関税についての妥協や延期は単なる手段の修正に過ぎず、米国の国家戦略や対中政策には微塵の揺るぎも感じられないからです。
揺るぎない米国の国益と対中戦略
米国は覇権国としての地位を維持するため、米国を中心とした国際秩序に挑戦する中国の台頭を抑え込むことを最重要の国家戦略の一つと位置付けているようです。そして、トランプ関税に代表される通商政策も、そうした戦略実現のための「一つの手段に過ぎない」ということを認識しておく必要がありそうです。
米国は第一次トランプ政権下で対中戦略を抜本的に見直し、2017年に取りまとめた「国家安全保障戦略(NSS2017)」で中国を「米国の安全や繁栄を侵食しようとする挑戦国(Attempting to erode American security and prosperity)」と再定義し、対中強硬姿勢を鮮明にしました。