通商政策だけじゃない、トランプ政権の「三の矢」
トランプ政権による対中強硬策は、関税や輸出規制と言った通商分野に限らず、様々な形で執拗に推進されているように思われます。例えば、トランプ政権はハーバード大学への補助金の支給や留学生受け入れ停止措置を決めたことでメディアを賑わせていますが、その背景には米政府の対中戦略が見え隠れしています。
一般に、トランプ政権がハーバード大学に対して厳しい措置をとる背景には、①同大の強いリベラル志向、②政権の意向を無視したDEI政策(Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の頭文字をとった略称)の実質的な維持・温存、③エリート層への反感、そして、④反ユダヤ的な運動へのけん制、などが指摘されています。もちろん、こうした見方を否定するつもりはありませんが、ハーバード大学と中国とのこれまでの関係性についても、見逃すことはできないでしょう。
ハーバード大問題に見え隠れする「米中対立」
現在、ハーバード大学には世界146カ国から計6751人の留学生が在籍しています(2024年秋学期)。このうち、中国出身の学生は1390人(約20.6%)を占め、出身国別で最大となっています(図表2)。
【図表2:ハーバード大の留学生の出身国】

(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
さらに、こうした留学生の多さに加え、ハーバード大学は中国政府・共産党との関係性がたびたび話題になってきました。例えば、米下院中国特別委員会の報告によれば、ハーバード大学は少数民族の弾圧に関与したとされる中国政府の準軍事組織に対して、複数回の研修プログラムを実施していたことが報告されています。
また、ハーバード大学は中国共産党との関係が指摘される香港の財団メンバーの仲介により、約3億5000万ドル(約500億円)の寄付を受け取っていたことが報じられています。
さらに、ハーバード大学の化学部学部長だった元教授は、米国政府から1500万ドルの研究費を受け取っていたにもかかわらず、優秀な研究者を中国に呼び込む中国政府の「千人計画」に参加し、さらに、約150万ドル(約2億1000万円)の資金を中国政府から受け取っていたことを隠し、虚偽の申告をしたことで連邦陪審から有罪の判決を受けています。