1.対領空侵犯処置
国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。
対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条に基づき、第一義的に航空自衛隊(以下、空自)が対処している。
空自は、我が国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーや早期警戒管制機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。
さらに、この航空機が実際に領空を侵犯した場合には、退去の警告などを行う。ちなみに、領空とは、国家の領土・領海の上空空域をいう。
領空の高度限界については、大気圏内というのが一応の通説となっている。領海とは、基線(海岸の低潮線)から12海里(約22.2キロ)の水域である。
さて、日本では対領空侵犯措置についてあまりよく知られていない。
自衛隊機はこれまで、領空を侵犯した軍用機に対して警告射撃をしたことが一度だけあるが、撃墜したことは一度もない。
世界の常識では、外国の領空を侵犯した航空機(軍用機であろうと民間機であろうと)は撃墜されてもやむを得ないというものである。
事例として、1983年9月1日、ニューヨーク発ソウル行きの大韓航空機007便がソ連の領空を侵犯し、宗谷海峡上空でソ連空軍戦闘機に撃墜される事案が発生した。
機体は宗谷海峡付近に墜落し、日本人28人を含む乗客乗員269人は全員死亡した。
この事例を、国際法の観点から見れば、国家主権とは「国家が領域内(領土、領海、領空)においてもつ排他的支配権」であり、国家主権が侵されたときは自衛権が発動されるのである。
これが国際社会の現実である。ただし、領海においては無害通航権が認められている。
すべての国の船舶は、沿岸国の平和、秩序、安全を害さない限り、その領海を通航する権利を有しており、沿岸国は、原則としてこの無害通航を妨害してならないとされる(海洋法条約第17条)。
ちなみに、5月3日に尖閣近海で日本の民間機に接近した中国のヘリコプターに対空火器が装備されていたかどうかは不明であるが、海警局の艦艇には対空火器が装備されているので場合によっては日本の民間機が撃墜される可能性もなくはなかった。