おわりに
さて、今、中国公船による尖閣諸島周辺の日本領海への侵犯行為を巡り、「グレーゾーン事態」対処が喫緊の課題となっている。
「グレーゾーン事態」に対して、現行法では海上においては海上保安庁が、陸上においては警察が対応することになっている。
海上保安庁や警察では手に負えない事態が発生した場合は、内閣総理大臣が自衛隊に対して海上警備行動や治安出動を命じることができる。
航空においては航空自衛隊が対応している。
対領空侵犯措置(自衛隊法84条)は、外国の航空機が国際法規または航空法その他の法令の規定に違反して我が国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、または我が国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができると定めている。
これまで政府は正当防衛と緊急避難に限って武器使用ができるとの見解を示してきた。
ところが、2023年2月、領空侵犯した気球や無人機を撃墜できるよう政府が自衛隊の武器使用要件を拡大した。筆者は、無人機を撃墜することは当然であると考える。
ちなみに、海上保安庁は、2001年11月に、繰り返し停船を命じても応じず、なお抵抗または逃亡しようとする船舶に対し、海上保安庁長官が一定の要件に該当すると認めた場合には、停船させる目的で行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう、海上保安庁法を改正した(第20条第2項)。
この2001年の海上保安庁法の武器使用基準の改正は、我が国の武器使用基準の歴史的転換点であったと筆者はみている。
では、警告射撃しても領空から退避しない領空侵犯機(軍用機)にどのように対応するのか。
監視にとどめるのかまたは撃墜するのか。世界の常識は撃墜である。
政府は、このような場合の詳細な交戦規定(ROE:Rules of Engagement)を、事前に策定しておくべきではないかと筆者は考える。
また、併せて尖閣諸島周辺の海空域などでの偶発的な衝突を回避するために、「日中防衛当局間ホットライン」を含む「日中防衛当局間における海空連絡メカニズム」を有効に活用すべきである。