イランのミサイルを迎撃するイスラエルのアイアンドーム(6月18日、写真:ロイター/アフロ)

 2025年5月20日、ドナルド・トランプ米大統領は、次世代ミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」の設計を選定し、同プロジェクトの主任プログラムマネージャーに米宇宙軍作戦副部長のマイケル・グートライン将軍を指名したと発表した。

 トランプ氏は「次世代の技術を陸、海、宇宙に展開する」と説明し、「地球の反対側や宇宙から発射されたミサイルでも迎撃できる。史上最高のシステムとなる」と語った。

 約3年で完成させ、自身の任期が終了する2029年1月までに運用を始めるという。

 また、トランプ氏は同記者会見で、同防衛システムの費用は約1750億ドルに上り、すべてを米国で製造すると述べた。

 さて、2025年1月27日、トランプ米大統領は、「次世代ミサイル防衛システム」の構築を目指す「アメリカのためのアイアン・ドーム」と題する大統領令(「The Iron Dome for America EXECUTIVE ORDER January 27, 2025」)を発出した。

 同大統領令の詳細は、拙稿「戦費に苦しむロシアを完膚なきまでに叩きのめす、トランプ虎の子大統領令」(2025年2月22日)を参照されたい。

 大統領令では、「アイアン・ドーム」であったが、今回「ゴールデン・ドーム」に改称されている。

 同大統領令には、現在整備が進められている「極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサー」(HBTSS)および「拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ」(PWSA)の開発・導入を加速すると共に、「都市や民間人への攻撃を阻止するための下層およびターミナルフェーズでの迎撃能力の導入」や「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」などを求めている。

 この「宇宙配備迎撃ミサイル」は、ロナルド・レーガン元大統領が提唱した戦略防衛構想(SDI)、なかんずく、ブリリアント・ぺブルズ(Brilliant Pebbles)を想起させるものである。

 上記のトランプ氏の発表に対してロシアと中国は異なる反応を示した。

 中国外務省の報道官は、構想に「深刻な懸念」を表明し、構想の発表は「強い攻撃的意味合い」を持ち、宇宙の軍事化と軍拡競争のリスクを高めたと主張し、米国に開発を断念するよう要請した。

 ロシア大統領府の報道官は、ゴールデン・ドーム構想の発表により米ロは近い将来、核軍縮に関する協議を迫られる可能性があると述べた。

 ところで、本稿では、「ゴールデン・ドーム」に含まれる主要な事業計画、つまり、「アメリカのためのアイアン・ドーム」と題する大統領令の中で、開発・導入が指示されている事業計画について述べてみたい。

 以下、初めにゴールデン・ドームの狙いについて筆者の意見を述べ、次に、「ゴールデン・ドーム」に含まれる事業計画の概要について述べる。

1.「ゴールデン・ドーム」の狙い

(1)「恐怖の均衡」からの脱却

 戦略防衛構想(SDI)はABM条約(Anti-Ballistic Missile Treaty=弾道弾迎撃ミサイル制限条約、1972年米ソ調印、2002年米脱退により失効)によって制度化された(MAD:Mutually Assured Destruction)、いわゆる「恐怖の均衡」からの脱却を試みた壮大な計画であった。

 弾道ミサイル攻撃への防御策は、1980年代に米国のレーガン大統領が打ち出した戦略防衛構想(SDI)から始まった。

 衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配備、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃、撃墜し、アメリカ合衆国本土への被害を最小限に留めることを目的にした。

 SDIは旧ソ連の長距離弾道ミサイルを宇宙兵器で撃ち落とすという壮大な計画で、およそ187億ドルの予算が投じられたとされる。

 ただ、SF映画の題名を取って「スター・ウォーズ計画」と呼ばれたように、当時の技術水準では実現困難な部分が多く、結局実用化しなかった。

 その後、米国ではクリントン政権時代、同盟国や国外に駐留する米軍を守るために中・短距離型の弾道ミサイルを対象にした戦域ミサイル防衛(TMD)と、米本土を守る全米ミサイル防衛(NMD)構想がスタート、現在のミサイル防衛(MD)につながっている。

 さて、ゴールデン・ドームの計画では、「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」が求められている。

 この「宇宙配備迎撃ミサイル」は、レーガン元大統領が提唱した戦略防衛構想(SDI)の「ブリリアント・ぺブルズ(Brilliant Pebbles)」を想起させるものである。

 敵性ミサイル察知用の受信装置付の超小型衛星ブリリアント・ペブルズは宇宙に配備し、敵性ミサイルを察知すると衛星自体がロケットモーターを利用し敵性ミサイルに衝突しミサイルを破壊するという構想のもとで開発された。

 しかし、宇宙への配備直前で戦略防衛構想(SDI)の自然消滅に伴い、中止された。

(2)極超音速ミサイル防衛システムの構築

 ゴールデン・ドームは、極超音速ミサイル防衛システムの構築を目指している。

 ここ数年、各国において極超音速兵器(Hypersonic Weapons)の開発・導入が進んでいる。

 定義によれば、マッハ5以上で飛行する極超音速兵器は2種類ある。

 一つはロケットから発射され、標的に向かって滑空する極超音速滑空弾(HGV:hypersonic glide vehicle)。

 もう一つが標的を捕捉した後、高速の空気吸入エンジン(air-breathing engines)または「スクラムジェット(scramjets)」により加速される極超音速巡航ミサイル(HCM:hypersonic cruise missile)。

(出典:米議会調査局報告書2020年8月27日)

 極超音速兵器は、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどへの対処を前提としたこれまでのミサイル防衛システムでは対処が困難であるとされている。

 なぜなら、極超音速兵器は飛翔高度が低いため所要のブースト時間は弾道ミサイルよりも短くなり、ブースト用ロケットの出す熱も小さくなるからである。

 従って弾道ミサイルに比べて極超音速兵器は赤外線センサーでは捉えにくくなり、その発射探知や追尾には現用の弾道ミサイル防衛用の早期警戒衛星の能力では不十分となってしまう。

 そこで、米国は高性能の赤外線センサーを装備した衛星を低軌道に多数配置して、警戒・探知・追尾のネットワークを構成する構想を打ち出している。

 それが、宇宙開発庁(SDA)の「拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ」(PWSA:Proliferated Warfighter Space Architecture)やミサイル防衛局(MDA)の「極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサー」(HBTSS:Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensor)である。

 また、現用のミサイル防衛システムの迎撃兵器にはそれぞれ対応可能高度があり、高度30キロ~80キロの大気圏内をマッハ 5〜20の極超音速でスキップや滑空しながらかつ軌道変更しながら標的に接近し、最後はダイブして標的に到達する極超音速滑空弾(HGV)を迎撃できる兵器を保有していない。

 そこで、ミサイル防衛局は、極超音速滑空弾(HGV)を滑空段階で迎撃する「滑空段階迎撃ミサイル(GPI)」を日米共同開発している。