栽培植物や家畜の起源は21世紀の熱い研究テーマ
現在の人類はイヌを飼いネコと遊び、ウシやブタやニワトリ、イネやコムギやダイズを食べ、カイコやヒツジやワタの出す繊維をまとって暮らしています。現在の人類はこれらの家畜や栽培植物がいないと生きていけません。
家畜と栽培植物は、私たちの祖先が1万年〜数千年間の品種改良によって、野生種の姿形や性質を変えて作り出したものです。その品種改良は徹底したもので、元の野生種がどれだったのか、見分けるのが難しいほどです。(ただしネコは野生種のリビアヤマネコと見かけがほとんど変わっていません。)
見分けるのが難しいため、家畜や栽培植物の野生種の同定は、科学研究の真剣なテーマとなってきました。そして前世紀までは、多くのけっこう重要な家畜や栽培植物も、元の野生種がどれだったのか分かっていませんでした。
例えば、イヌは家畜化されたオオカミですが、偉大な動物行動学者コンラート・ローレンツ(1903-1989)の1953年の著書『人 イヌにあう』には、イヌの祖先がジャッカルだと書いてあります。前世紀には、世界で一番イヌに詳しいローレンツ博士でさえ、イヌの野生種を正しく同定できていなかったのです。
こうした事情は21世紀に一変しました。革命的なDNA読み取り技術が革命を起したのです。しかもこの技術は年々進歩し、20世紀末にはヒト1個体のDNAを読み取るのに13年もの年月と数十億ドルもの予算を必要としたのに、現在では、携帯可能な超高速PCR装置が100万円以下で買えます。生物学、医学、人類学、考古学、犯罪捜査といった分野はDNA読み取り技術によって予想外の進展を遂げつつあります。(ヒトゲノムプロジェクトに投じられた数十億ドルは科学史上類のない高リターンをもたらしました。)
家畜や栽培植物の場合、DNAの読み取りによって、野生種がどれだか確定するばかりでなく、いつ頃、どのような品種改良が加えられたなど、得られる情報量が桁違いになりました。ローレンツ博士もびっくりです。