誰が栽培した、栽培アズキ

 さて栽培アズキの起源は中国南部か縄文時代の日本列島か、学説はいささか混乱した状況にありましたが、今回の研究によって、一番確からしい栽培アズキの起源は3000年前〜5000年前の日本だという結論になりました。縄文時代の中期〜後期です。これで中期〜後期の縄文人がアズキを栽培していたことは確実です。

 中国大陸の栽培アズキは、考古学的証拠とあわせると、日本の栽培アズキが約3000年前に海を渡っていった可能性があります。(独自に栽培化された、などの可能性も残ります。) 稲作技術をもらうかわりに栽培アズキをあげたのでしょうか。

 これまで報告されていた、中国南部の栽培アズキと野生アズキのDNAに共通点があることは、日本由来の栽培アズキと現地の野生アズキの交雑によるものと説明できます。

 このことは、これまでの核DNAの比較ではなく、葉緑体DNAの比較によって明らかになりました。ここは細かい話になるので、葉緑体についてはまた今度、とおっしゃる方は次の節に進んでください。

 どういうことかというと、植物の細胞には核という細胞内器官があって、そこに大半のDNAが入っているのですが、細胞内の葉緑体もまた独自のDNAを持っているのです。核DNAは雄しべの花粉と雌しべの卵細胞の受精によって、両方のDNAを受け継ぎますが、葉緑体は花粉のDNAをもらわないのです。

 これは、かつて葉緑体が「シアノバクテリア」という独立した単細胞生物だったことの名残と考えられています。数十億年もの昔、植物の祖先の単細胞生物とシアノバクテリアは共生を始め、後者は前者の細胞内に棲み着いて、やがて独立して生きる能力を失い、植物の細胞内器官と化したのでしょう。

 ともあれ、日本由来の栽培アズキが中国南部で栽培されるうちに、野生アズキの花粉をもらって交雑した、という仮説が正しければ、中国の栽培アズキの葉緑体DNAは現地の野生アズキの葉緑体DNAよりも日本の栽培アズキの葉緑体DNAに近いはずです。逆に、栽培アズキの花粉が野生アズキを受粉させたとしても、古代人がわざわざそんなものを採集して育てる可能性は低いからです。

 調べたところ、中国の栽培アズキの葉緑体DNAは、予想通り日本の栽培アズキと似ていて、日本の栽培アズキが祖先だという考えが裏付けられました。