ファクトチェックへの信頼を守るために

 このような状況が続けば、ファクトチェック自体への信頼が揺るぎかねないと懸念する声もある。

 たとえば、多くのファクトチェック団体やジャーナリズムの専門家たちが、人間のファクトチェッカーをAIに置き換えることに対して、一致して警告を発している

 ジャーナリズムの質を向上させることを目的とした非営利の教育機関、ポインター研究所が発表したガイドラインでは、AIの使用に際して透明性と人間による監視を義務付けることで、「AI ツールは人間の判断に取って代わるものではなく、それを補完するもの」であることを強調している。

 要するに、ジャーナリズムの教育を受けていない一般のXユーザーが、ファクトチェック行為全体をAIに丸投げしているようないまのGrokの状況は、ファクトチェックと呼ぶに値しないというわけだ。

 長い目で見れば、Grokが誤情報をファクトチェックだという建て付けで拡散してしまうことよりも、ファクトチェックという行為自体が、確立された方法論に基づく人間による事実確認から、信頼性の低いAIシステムによるアウトプットへと意図せず移行してしまうことこそが最大のリスクだと言える。

 そのためにも、まずはX上における「Grokファクトチェック」の流行に、社会として警鐘を鳴らすことが必要かもしれない。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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