
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
情報には何より、正確であることが求められる。誤った情報は、時に社会を大混乱に陥れる可能性があるためだ。
ネットやソーシャルメディアなどというものが登場するよりもはるか昔、紀元64年の古代ローマでも、誤情報の怖さを思い知らされる事件が起きている。
この年の7月、ローマで6日間にわたる大火が発生し、市街地の大部分が焼失した。すると、「ネロ(当時のローマ皇帝)が新都市建設のために放火したのだ」という噂が広まり、ネロはこの疑惑を払拭するため、当時、新興宗教だったキリスト教徒を放火犯として告発。それを信じた人々により、多数のキリスト教徒が捕らえられ、十字架での処刑や猛獣の餌にされるなど残酷な迫害を受けた。
実際の出火原因は不明だが、この誤った情報(そもそも「ネロ犯行説」も確かな証拠はない)の流布は、ローマ帝国における深刻なキリスト教徒迫害を引き起こし、社会に混乱をもたらす結果となった。
こうした事態を避けるために、これまであらゆるメディアにおいて、「事実確認」の重要性が強調されてきた。現代のソーシャルメディアにおいては、「ファクトチェック」という言葉で、さまざまな企業や組織、団体がネット上に流れる情報の事実を確認するに至っている。
しかしいま、AIが手軽に使えるようになったことで、ソーシャルメディア上でのファクトチェックが危機に瀕している。いったいどういうことか、まずは最近注目された事例を紹介しよう。