どうすべきかニッポン?
優良農地の所有権の行き着く先は大規模グローバル法人だろう。それが自由競争の自然な姿だ。しかし、もし輸入食品が閉ざされ、飢えが現実のものとなったとき、二重国籍の外国人や外資系法人はどう動くだろうか?
こういった外資による農地買収がこのまま進んでいくと、生産物を計画経済下に置くことも可能になるだろう。未来永劫、それが続けられる懸念がある。
全国農地の26%以上を占める北海道(食料自給率216%)や農業県の茨城等が押さえられてしまえば、自給率ゼロに近い東京や大阪はあっという間に干上がるし、台湾有事でシーレーンである台湾海峡やマラッカ海峡が影響を受ければ一定期間、石油や食料分野で大打撃を受けることは避けられない。そうなったときのパニックは、コロナ時のマスク不足の騒ぎとは比較にならない。
だというのに、国民的世論はいまだに輸入促進、規制緩和であり、国土解放である。日本には外国人の土地買収に対する規制もない。
3年前に重要土地等調査法ができたが、これはほとんど骨抜きの法律と言ってよい。規制区域が重要施設の周囲わずか1キロ四方と限定的できわめて狭く、売買規制にまで踏み込んでいない。できることと言えば、土地の利用状況調査に過ぎない。
どれだけ買収されているのかについても掴んでいない。
一方で、悲しいかな、もはや中国抜きでは成り立たなくなっている私たちの暮らしがある。
衣のU、食のG、住のN――。誰もが日常お世話になっている企業だが、これらの優良企業群もまた中国抜きでは成り立たない。
目立たないまま、また気づかないまま日本農業や農地が外国のものになってしまう懸念に対し、もっと感度高く、注視すべきだろう。とりわけ国防動員法(2010年)や国家情報法(2017年)が海外の中国人にも適用されることを日本人の皆が知るべきだ。平時でもその統制は有効である。
このままでは日本の国土はどんどん買われ、農地も失ってしまう。どこもかしこも、表面上は所有者不明地になっていく……。
ハードルは高いかもしれないが、まずは実態解明と不明化防止だろう。各地の農業委員会と職員を動員して本気で調べ続けることが求められる。大義名分はガバナンスの適正化だ。ばらまき予算で令和版ウルグアイラウンド対策をやるよりも将来的には有益だ。外国人由来の不能欠損処理の税金や産廃投棄の予備群を増やさないためにも。
令和のコメ騒動を奇貨として、今こそ危機感を持って、国際標準の国土管理を求める声を上げなければいけないと思う。
【平野秀樹】国土資源総研所長
九州大学農学部卒業後、農水省入省。環境省環境影響評価課長、農水省中部森林管理局長を歴任。東京財団上席研究員、大阪大学医学部講師、青森大学薬学部教授、姫路大学農畜産研究所長も務めた。博士(農学)。2024年瑞宝中綬章受賞。「聞き書き甲子園(高校生による民俗伝承)」「森林セラピー®」の創設にかかわる。現在、兵庫ムクナ豆生産組合理事長、森林セラピーソサエティ副理事長を兼務。
著書:『サイレント国土買収』(角川新書)、『日本はすでに侵略されている』(新潮新書)、『日本、買います』(新潮社)、『森の巨人たち・巨木百選』(講談社)、『森林理想郷を求めて』(中公新書)
共著:『宮本常一』(河出書房新社)、『領土消失』(角川新書)、『奪われる日本の森』(新潮文庫)、『森林セラピー』(朝日新聞出版)、『森林医学』『森林医学Ⅱ』(朝倉書店)など多数。