牛肉畜産とコメ農業は違う
そもそも牛肉畜産とコメ農業は違う。
牛肉生産は土地型産業ではない。大規模工場と考えた方がよい。
今の日本にあって、国内で牛肉生産を担う主力は大規模肥育法人だ。稲わら、ふすま(小麦の皮・胚芽)、トウモロコシを大量に輸入し、畜舎の中でオートマティカルに肥育する。生後10カ月の子牛を仕入れ、20カ月間肥育したのちに屠畜する。
繁殖を主業とする経営体は小規模経営だが、大規模肥育経営体がそれらを買収・系列化する傾向にある。いわば垂直統合が進んでいく過程にある。
畜産の規模は年々大規模化しており、出来上がった畜産商品(A5の和牛)は輸出農産物の主力品目(ホタテに次ぐ第2位:2024年)で、出荷額を伸ばしている。
一方、コメ農業は水田232万ヘクタール(農地の54%、国土の6%)という大面積に及び、太陽エネルギーを得て営む生業・土地型産業だ。そのフィールドには春から夏にかけて一面いっぱい水を張り貯める。水源涵養機能という公益的機能を発揮する公益型の産業でもある。
コメ農業が重要視されてきた理由は、主食を供給するという役割に加え、このような国土管理への影響が大きいためである。戦前までは地域の主業、中心産業であった。
今日、兼業化の進展や生産額の低下により、産業上の位置づけは下位になっているものの、依然、食という生存の基本的条件を満たす営みであり、国土保全機能を発揮する上で不可欠な資源循環型の持続的産業である。
ところが、今回のように短期的な市場原理の一面で評価されていくと、単純に安い方がよいといわれてしまう。コメの国際平均価格は5㎏で500円~750円だ。そうなると、国際競争に勝てる栽培エリアは限られ、北海道と北関東の一部以外はほぼ負ける。特に中山間エリアの切り捨ては顕著になっていく。日本の耕作放棄地は増えるばかりだ。

結果、日本の食料自給率は38%(カロリーベース2023年度)よりさらに下がっていく。アメリカの自給率は104%、フランスは121%、豪州は233%だが、これらに比べ、兵糧攻めにはひとたまりもないのが日本だ。もっと言えば、日本の輸入依存は化学肥料原料がほぼ100%、野菜の種が90%である。脆弱極まりないこの農業生産状況を嘆く声は、依然として小さい。*3
目先の利ばかりを追っていると、有事のときの策がなくなる。国民の主食・コメの未来は牛肉の扱いと同じであってはならないと思う。
*3 J-POWER「GLOBAL EDGE」2025.1 地域を起点に考える日本の「食料安全保障」 鈴木宣弘