リーダー役を演じることは、むしろ自分自身の成長のため
先日、僕がエグゼクティブ・コーチングを行っているある企業の経営幹部会議で、こんなやり取りがあった。
その会社では、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)の取り組みの一環として、経営陣に女性役員を増やす方針を掲げていた。将来的な役員候補として、すでに二名の女性が選ばれていたのだが、問題があった。
彼女たち自身が、役員というポジションに興味を示してくれないのだ。
「役員になれば給料は上がるかもしれないけれど、一方で責任は非常に重くなる。トータルでは自分にメリットがあるとは思えない」
彼女たちの考えはこうだった。
最近、若い世代の中で昇進を望まない人が増えていると言われるが、このケースもそれに似ていた。責任の重さを避け、給料アップよりも自分の負担を軽くしたいと考える傾向だ。
そんなやり取りの中、ある女性役員がこう発言した。
「それって、大きな勘違いよね。実は昇進してリーダーになると楽しいことがたくさんあるのに、みんなそれを隠しているだけ。嫉妬されるのを恐れて、あえて辛そうに振る舞っているからいけないのよ」
僕は彼女の勇気ある発言に思わず膝を打った。まさにその通りだ。
リーダー役とは、実は楽しいものなのだ。リーダー役を楽しめる瞬間のひとつは、「自分でコントロールできる範囲が広がった」と実感できたときだ。
僕自身、リーダーとして働いていた頃、日々の課題や悩みをメモに書き出して整理していた。そして、それらの課題を「自分でコントロールできるもの」と「自分の力ではどうにもならないもの」に分けて考えていた。
「自分の力ではどうにもならないもの」に関しては、いったん棚上げして様子を見るしかない。しかし、「自分でコントロールできるもの」に関しては、自分がリーダーシップを発揮する場面だ。
もしその場でリーダーシップを発揮しなければ、誰か別の人が代わりに舵を取るだろうけど、その結果は自分の望んでいた方向とは限らない。
「まあ、仕方ないけど、なんかモヤモヤするな……」
こんな小さなストレスでも、「塵も積もれば山」となる。他人のリーダーシップに従い続ける人ほど、愚痴っぽくなりやすい。成長のペースも遅くなる。
「情けは人のためならず」という言葉があるが、リーダー役を演じることも、他人のためというより、むしろ自分自身の成長のためなのだ。
リーダーになるのは大変そうに見えるかもしれない。だが、そこには想像を超えた楽しさと成長の機会が待っている。ぜひ一歩踏み出して、自分の新たな可能性を切り開いてほしい。
妹尾輝男(せのお・てるお)
コーン・フェリー元日本代表/エグゼクティブ・コーチ
横浜国立大学経営学部卒。ロンドン、バミューダ諸島、東京にて石油製品トレーディング会社に勤務した後、1988年、スタンフォード大学で経営学修士(MBA)取得。ベイン・アンド・カンパニーを経て、世界最大の人材組織コンサルティング会社コーン・フェリーに入社。同グループで30年以上、主にグローバル・トップ企業のエグゼクティブ・クラスを対象に、ヘッドハンター、エグゼクティブ・コーチとして第一線で活躍。その間、日本法人社長を9年間、会長を1年間務め、現在は特別顧問。