北斎と広重の代表作を出品

 新紙幣や新パスポートの図案にも採用された葛飾北斎(1760~1849)は、もはや説明不要のスーパースター。海外での評価も高まるばかりで、代表作として知られる「冨嶽三十六景」の1図《神奈川沖浪裏》には、2023年開催のクリスティーズ・ニューヨークオークションで276万ドル(約3億6200万円)の値が付けられた。

「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」展示風景。葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年(1831)頃

《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》は現在、世界に約200点が現存するといわれており、本展でも展示されている。画面手前に大きな波が立ち上がり、波しぶきを追いかけると、その先に富士山が現れる。視線の誘導を考えた北斎の画面づくりの巧みさに、本作を見るたびに驚かされる。

「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」展示風景。歌川広重《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》天保4-5年(1833-34)

 歌川広重(1797~1858)は「東海道五拾三次」シリーズを筆頭に、街道絵、名所絵を次々に出版し、“風景画の広重”としての地位を築いた。北斎も風景画を得意としたが、広重の作品は人々の存在感が北斎以上に強い。《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》からは、旅人が雪を踏みしめるザクザクという音や、ボソボソと話す声が聞こえてきそう。《東海道五拾三次之内 庄野 白雨》からは、雨と風の強さと、それを避けるように駆け出す旅人の激しい息づかいが感じられる。

「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」展示風景。歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》安政4年(1857)

 晩年の「名所江戸百景」もまた、世界をうならせた傑作シリーズ。なかでも《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》、《名所江戸百景 亀戸梅屋敷》はヴィンセント・ファン・ゴッホが研究し、模写作品を制作したことで知られている。激しい雨を直線で描いた《大はしあたけの夕立》、手前の木を大きく描き遠近感を強めた《亀戸梅屋敷》。斬新でいて、完成度の高い広重の画力に、ファン・ゴッホも舌を巻いたに違いない。