道場を作った時点で、根鈴氏は「打撃指導者」として一定の評価を得ていた。法政大学の後輩のGG佐藤(元西武)や、廣瀬純(元広島)などの指導をして実績を残していたのだ。そうした評判もあって、プロ、アマの野球選手が集まるようになった。

 この道場では原則としてシートノックや投球練習はしない。選手はひたすらバットスイングを繰り返す。それもアッパースイングで。

 根鈴氏が日本に紹介した「タナーティー」というティーにボールを載せてティーバッティングをする。

タナーティー

 アッパースイングでバットを振るがそれは「フライを打つ」という感覚ではなく、手首は返さず、角度を付けたライナーを打つという感覚だ。

 打者は前述の「バレルゾーン」を意識してランチアングル(打ち出し角度)を付けて打つ。感覚的に言えば少し振り遅れるくらいの意識で左打者なら左中間をイメージして振る。

 従来、日本ではホームランは、ボールの下半分を叩いてバックスピンをかけて打つものとされてきた。しかしMLBでは、ホームランは「角度をつけたライナーを打つ」ことなのだ。

角度を付けたライナーを打つという感覚(筆者撮影)

根鈴道場で覚醒したオリックス・杉本裕太郎

 そのうちに根鈴氏の指導を受けた選手が次第にプロで実績を上げるようになった。代表格は、オリックスの杉本裕太郎だ。2018年オフに根鈴氏のもとを訪れた杉本は、まだ二軍選手だったが、次第に実力をつけて2021年には32本塁打で本塁打王のタイトルを取る。

 根鈴氏は杉本を親しみを込めて「ラオウさん」と呼ぶ。

「ラオウさんは、僕の話を聞いて、自分が納得するまでずっとバットを振っていた。それ以後も来ていますね。一方で日本ハムの万波中正選手も新人の頃から来てましたが、彼は一通り説明して、やってみて納得すると『分かりました』といって帰っていった。人それぞれですね」

本塁打を放つオリックス・杉本裕太郎選手=4月13日(写真:産経新聞社)

 根鈴道場には日本ハムの清宮幸太郎や、ロッテの藤原恭太なども訪れている。プロの一流選手は、すでに打撃について一家言を持っている。根鈴氏の理論をうのみするのではなく、そこから自分なりの新しい発見をして、自分の打撃論に役立てるというやり方なのだ。

 一方でアマチュア選手は、根鈴氏の打撃理論を一から学ぼうと熱心に通ってくる。

 大谷翔平が、根鈴氏の理論に近いバッティングでホームランを量産してから「根鈴道場」は注目を集めるようになった。

「大谷選手は、NPBにいたころと今では体格が全然違う。彼はフィジカルという下地がないとフライボール革命に挑んでもぶっ壊れるのが関の山ということを知って、肉体改造をしたんです。日本の選手ももっとフィジカルを作らないとアメリカに行っても、通用しない。舐められるだけです」

 盛り上がった二の腕を見せつけるようにして語る根鈴氏の言葉には説得力がある。今も筋トレを欠かさない。

 根鈴氏は前述の「タナーティー」のほかに、打球が「バレルゾーン」に乗るスイングが身につく「バレルバット」や「軽量特殊ボール」とポータブルピッチングマシン「レッドマシン」などの販売も手掛けている。

「レッドマシン」左と「バレルバット」

「日本ではまだあまりなじみがないのですが、アメリカでは当たり前のバッティングの練習法や道具なども日本に伝えています。『バレルバット』はラオウさんや吉田正尚選手(現レッドソックス)が使ってくれたのでよく売れました」

 今や「根鈴道場」には、NPB球団のコーチや野球解説者などが訪れて、根鈴氏の打撃理論に耳を傾けるようになっている。