韓国マネーが流れ込む一大商業圏に

 ところで、社会言語学の中に言語景観というジャンルがある。公共空間に出現している言語を分析することで誰がどのように移動しているのか、また受け入れ先が他言語話者に対してどのような感情を抱いているのか、などを研究する学問だ。社会言語学者のバックハウスは言語景観を 「道路標識、 広告看板、地名表示、店名表示、官庁の標識などに含まれる可視的な言語の総体」 と定義している(「日本の多言語景観」 真田信治・庄司博史(編) 『辞典 日本の多言語社会』 岩波書店、2005年)。

 例えば、団地のごみ置き場に外国語(中国語、韓国語、ベトナム語、ポルトガル語など)で「曜日ごとに分別してください」と書かれている場合、それらの言語を話す人々に向かってごみの分別を要求していることが分かる(ごみの分別をしないことへの不快・不満の表出)。

 これに対し、ダナンやニャチャンの街でみられる韓国語景観は、飲食店の看板にせよメニューにせよ、サービスにせよ韓国人観光客に対する購買を呼びかけるパターンがほとんどだ。中には韓国語だけの看板を出している韓国料理店もあった。

 つまり、街にあふれる韓国語表記は韓国人観光客に向けての呼びかけであり、ダナン、ニャチャンとも韓国マネーが流れ込む一大商業圏と化している実態を浮き彫りにしている。

 韓国マネーについていえばニャチャンでの出来事が思い浮かぶ。

「両替します」の張り紙があった薬局の店内に入り「これ、両替できますか?」と日本の1万円紙幣を差し出すと、若い女性店員は不思議そうに1万円札を眺めた後、「No」と戸惑い、「韓国ウォンなら両替できます」と答えた。

 外国為替市場の取引高は米ドルが全体の約44%で1位、ユーロが約15%で2位、日本円は約8%で3位だ。その円が両替できないことを知りかなりのショックを受けた。たまたまその女性が日本円を知らなかっただけの可能性もあるし、他店では両替可能だったかもしれないが、世界各地を歩いてきた筆者にとって両替商で日本円を突き返されたのは初めての経験だった。