これに頭を悩ませていたのが現在の農林水産省だった。毎年やってくるこの局面を、思惑通りに打開したい。そこで、米価に協力的で、ある程度いうことをきいてくれる政治家を囲い込む。その見返りに、選挙区に優先的に補助金などをあてがう。これが「族議員」のはじまりだった。
一方でコメの一括の買い入れが財政負担となる。高く買って安く売れば負担は増す。余剰が出れば尚更だ。コメの価格を安定させ、生産者を保護する必要もある。はじまったのが減反政策だった。
そしていま、「コメを買ったことがない」前農相から代わった若い農相が、農政の転換に臨もうとしている。首相もその気だ。
しかし、小泉農相は2016年に自民党の農林部会長だった時代に、農協改革を打ち出したが、JA農協と対立した経緯がある。石破首相は2009年に農相だった時代、減反政策の見直しを訴えたところ、身内からも猛反発を受け「史上最低の農林水産大臣と言われた」(党首討論より)過去がある。
備蓄米の過去3回の一般競争入札では、約9割をJA農協が落札している。これが随意契約に変更されたことで、売り渡し価格は47%も安くなった。販売価格が2000円では採算はとれないはずだ。前農相は族議員として知られる。いずれも不満が燻っていてもおかしくはない。
果たして、改革は進むのか。増産は可能なのか。
遅れに遅れた農業改革、いまさら遅れを取り戻せるのか
現実の問題として、地方には耕作放棄地が目立つ。「棚田百選」を農水省が1999年に認定したように、日本のコメ作りは中山間地を切り開いた田んぼも多く、段差があって、狭く、それぞれ形も違う。大規模化やスマート農業には向かない。

しかも中山間地の耕作放棄地は、圃場が崩れ始めているところも目立つ。再生するには、圃場を作り直す必要がある。そして、そうした状況は、少なくとも私の感覚では、いわゆる消滅可能性自治体に多い。過疎化、高齢化が進むなかで、どうやって新しい人材を確保するのか。
戦後の日本は、苦難を乗り越えながらも、とにかく耕すこと、コメを作ることに邁進した。食糧難を脱却して、豊かな国づくりを目指したはずだった。それがいま、コメの不足と高騰に国民が喘ぐ。不思議な状況に陥っている。