農家の自家消費以外の米は国が全量管理し国民に等しく分配する。それによって戦中戦後の混乱期に米価高騰を防ぐことができた。この陸軍主導で作られた厳格な食管法は日本人の心情によくマッチしていた。

 ただこの法律を実行するためには大量の人員が必要だった。戦前は農林省外局の食糧管理局、戦後は名称を変えて食糧庁に大量の人員を配置しなければならなかった。農家が米を隠して闇米として販売することを防ぐために警察力も必要になった。また米生産量を正確に把握するために農業統計部門にも多くの人員を配置した。現在でも農水省の統計部は他の省庁に比べて多くの人員を抱えているが、それは食管法の名残である。

 今回の米価高騰を受けて、「政府は米価をもっと厳格に管理すべきだ」との意見も聞かれるが、それは最終的には食管法に行き着く。

 食管法は戦時立法であり無駄の塊と言ってよい。だが平等を好む日本人の心情には合っていたようだ。戦時立法の廃止は昭和後期から平成初期にかけての大きな政治課題になり、紆余曲折を経て、食管法は1995(平成7)年にやっと廃止された。

石破内閣はなぜ米価高騰に鈍感なのか

 結局のところ、米価格は厳格に管理するよりも市場によって調節することが最も効率が良い。ただ忘れてはいけないのは、日本人が米に対して特殊な感情を抱いていることだ。平成になって細川護熙内閣の時に米を輸入することになったが、それは大きな政治問題になった。日本人はトウモロコシの自給率には無頓着だが、米の自給率には敏感に反応する。

 しかし石破茂内閣は米価高騰に対して鈍感である。それは、石破首相も森山裕幹事長も選挙区が地方であることと無縁ではないだろう。両人は農水大臣経験者であり農水族である。JAなど農業団体と深く関係しており、米価高騰は両人にとって好ましい。そのために米価高騰に対して、積極的な対策を打ち出さないのだと思われる。対策を打ち出すことで米価高騰が今以上に話題になり、それがJAの在り方などに波及することを恐れているのかもしれない。