パレスチナ人の民族自決権を否定した「ユダヤ国民国家法案」の成立

 さらに2018年7月には、イスラエルは国会で「ユダヤ国民国家法案」を可決しました。

 この法律では、「イスラエルはユダヤ人にとっての民族的郷土である」「ヘブライ語のみが国語である(従来はアラビア語も公用語としていたのを廃止)」とし、さらにはエルサレムを「不可分で統一された首都」と規定し、「離散ユダヤ人の帰還のために西岸地区の入植を拡大すること」が明記されました。

 これは、東エルサレムを「将来の独立国家の首都」として西岸・ガザの両地区で国家建設を目指すパレスチナ人の民族自決権を完全に否定しています。

 さらにこの法律には、イスラエルのユダヤ人とディアスポラのユダヤ人の関係強化に取り組むことも明記されています。これは入植活動を強化していくということとともに、イスラエルという国がイスラエルに住んでいる人だけの国なのではなく、世界のユダヤ人のための国であるという特殊事情を反映しています。

世界各地に住むユダヤ人

 日本の報道でもこの法律は「ユダヤ国民国家法」と翻訳されていましたが、「国民国家」の部分はヘブライ語で「メディナット・ハレオム」で、英語に直訳するとthe Nation-State です。Nation(ネイション)という語は「国民」の意味も「民族」の意味も含んでいます。

 「国民」が国籍を有する者を指すのであれば、ユダヤ人だけでなくアラブ人も当然入るはずですが、法律の条文はそうはなっていません。

 この法律の狙いは世界の「ユダヤ民族」とは、「離散」神話に基づく「ユダヤ人種」であると規定することにあります。「すべての住民に完全な平等を保障する」という内容を含んでいた建国宣言の内容から著しく逆行していることがわかります。

2年にわたった「帰還の大行進」

 2018年から19年にかけて、ガザで「帰還の大行進」という抵抗運動が行われました。

2018年10月19日、ガザのイスラエル・ガザ国境フェンスで、「帰還の大行進」に参加する若者(写真:ロイター/アフロ)

 毎週末、イスラエル領との境界フェンスに向けて大規模なデモ行進をして自分たちの帰還権をイスラエルと国際社会にアピールする運動です。18年は、ナクバによって多くの人が難民としてガザに避難した1948年から70年目という区切りの年でした。

 1976年3月30日にイスラエルによる大規模な土地の接収に対する抗議への弾圧で、パレスチナ人6人が殺され100人が負傷させられる事件がありました。そのことをきっかけとして3月30日は「土地の日」とされています。

 帰還の大行進は、2018年の土地の日からイスラエル建国の5月14日まで続けると宣言されて始まりましたが、毎週何千人も参加する人がいて、当初の予定を超え19年末まで続きました。