嘘vs真実、「ペンタゴン・ペーパーズ」

 もちろん、米国もベトナム戦争の影響を強く受けました。戦闘が泥沼化するにつれ、「遠いアジアの争いなのに、なぜ米国の若者が犠牲になる必要があるのか」といった疑問や不信が拡大していきます。

 そのなかで米政権への不信感を決定的にしたのは、ニューヨーク・タイムズ紙が暴露した「ペンタゴン・ペーパーズ(米国防総省ベトナム秘密報告)」の存在です。

 この報告書には、米軍が厳しい戦いを強いられている実態が詳細に記されていました。米軍が枯葉剤を使用したり、何の罪もないベトナム人を虐殺したりといった出来事なども記録されていましたが、そうした実態は米国民にほとんど知らされていなかったのです。

 また、ベトナム戦争のきっかけとなった「トンキン湾事件」についても、実際は北ベトナム側による攻撃ではなく、米国の自作自演だったことがこの報告書には記されていました。

 ペンタゴン・ペーパーズに関する報道をめぐっては、ホワイトハウスが記事掲載の差し止めを裁判所に申し立てました。最終的には他メディアも相次いで報道に加わり、報道側が勝訴しますが、ベトナム戦争は嘘と真実をめぐる争いという側面も持っていたのです。

 ベトナム戦争で敗北した米国では、帰還兵のPTSD問題が深刻化し、社会復帰できない若者も続出。「ベトナム症候群」と言われる状況が拡大しました。同じようなPTSDはその後のイラク戦争などでも大きな社会問題となっています。

 ベトナム戦争が終結した翌1976年、南北ベトナムは「ベトナム社会主義共和国」に統一され、東南アジア最初の社会主義国家となりました。その後、2000年代に入ってからは改革・開放路線を強化しています。

 第2次世界大戦後、米ソの代理となって社会主義陣営と資本主義陣営に分裂した国の中では、ドイツもベトナムも統一を果たしました。残る分裂国家は朝鮮半島の韓国と北朝鮮だけとなっています。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。