景気悪化で社会の分断がより深刻に

 トランプ氏は自らの行動を「常識の革命」だと主張しているが、その常識とはMAGA支持者の間で共有された価値観だろう。

 MAGA支持者が最も支持しているのはトランプ氏の移民政策だ。

 トランプ政権は不法移民対策をさらに強化するため、1807年に制定された反乱法(秩序安定のために大統領が軍などを動員する権限を認めるもの。適用はこれまでほとんどない)を発動し、戒厳令を宣言するのではないかとの噂が米国内で広まっている。
 
 MAGA支持者が「大学などの研究者がグローバル化の恩恵を独り占めしている」と不満を募らせる事情を踏まえ、トランプ政権は大学など高等研究機関への資金援助を停止し始めている。キャンパス内の反政府デモに警察を投入する事例も相次いでいる。

 ファシズムの専門家で知られるスタンリー・エール大学教授(専門は哲学)は「(大学などを露骨に攻撃する現状は)1930年代のナチス・ドイツと明らかな類似点がある」と危機感を露わにしている。

 トランプ氏が2期目に入り署名した大統領令は130本を超え、戦後最多だったバイデン前政権の3倍以上だ。トランプ氏のワンマンぶりに対し、「米国に王はいらない」「専制に抵抗せよ」などの非難が高まっているが、ナチス政権誕生前夜のドイツでも大統領令が多用され、議会が軽視される風潮があった。

「トランプ政権下の米国がファシズム国家となる」と主張するつもりはない。だが、経済が悪化すれば、米国の社会の分断がさらに深刻になるのは確実だ。悩める超大国の今後の動向を細心の注意を払ってウォッチすべきだろう。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。