rTMSやECTの普及を阻むハードル

鬼頭:抗うつ剤による治療の場合、寛解した後の再燃・再発防止を目的とした抗うつ剤の服用継続は保険診療です。また、ECTも維持療法として1~3か月に1回程度の頻度で受けることが保険でカバーされています。

 現在、日本全国20施設程度の医療機関で、rTMSの維持療法としての効果に関する共同研究が進められています。急性期に保険診療でrTMSを受けて寛解した患者を対象に、先進医療というかたちで1年間、維持療法としてrTMSの提供を行っています。

 これで良い結果が得られれば、rTMSは維持療法としても保険収載されるでしょう。

 ECTはかなり安全になっています。基本的に全身疾患が重く、全身麻酔をかけられないような状況を除けばECTを施術することができます。もちろん、頭蓋内圧が正常より高くなるような状態では実施できません。麻酔がかけられるか否かが、ECT実施の最も重要なファクターです。

 最近では、高齢のうつ病患者さんが増えています。一部の高齢のうつ病患者さんでは、ECTの実施により一時的に認知機能障害が出ることが知られています。この点を解決していけば、ECTは高齢者でも安心して実施できる治療法になると思います。

──rTMSやECTの普及の度合いは、都市部と郊外で差があるのでしょうか。

鬼頭:多少の医療格差は生じていると感じています。

 ECTは、静脈麻酔と筋弛緩薬が必須ですので、麻酔科医がいる大学病院や総合病院であれば施術可能です。また、精神科病院でも麻酔科医が携わることで実施できます。

 とはいえ、精神科医と麻酔科医、看護師などの人手が必要ですので、実施できる医療機関が限定されてしまっているのがECTの現状です。

 rTMSを提供している医療機関は、全国的にかなり増えてきています。ただ、保険算定の要件(※)が非常に厳しい。

※特定の治療法を保険診療で実施するために、施設が満たさなければならない条件。

 rTMSの場合は、「精神科を標榜している病院であること」「うつ病の治療に関し、専門の知識及び少なくとも5年以上の経験を有している常勤医師が1名以上勤務していること」「認知療法・認知行動療法(※)に関する研修を修了した医師が1名以上勤務していること」などが条件となっています。

※ストレスなどで固まって狭くなった考えや行動を柔らかくときほぐす心理療法。

 そのため、rTMSを保険診療で実施できる施設が限られていることは否めません。