「主流派経済学は貨幣が存在しない世界を前提としている」と中野氏は語る(写真:beauty_box/イメージマート)「主流派経済学は貨幣が存在しない世界を前提としている」と中野氏は語る(写真:beauty_box/イメージマート)

 経済学には多様な学派が存在している。その中で、現在多くの支持を集めているのは主流派経済学である。主流派経済学は、国家の経済政策立案の際にも用いられる非常にメジャーな学問である。

 一方で主流派経済学は現実の社会に即していないと指摘するのは評論家の中野剛志氏である。主流派経済学の何が正しくないのか、経済学のあるべき姿とは何か──。『政策の哲学』(集英社)を上梓した中野氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──政策立案において、経済学、特に主流派経済学はどのような役割を果たしているのですか。

中野剛志氏(以下、中野):政策の立案にあたって、主流派経済学が大きな影響力を持っていることは間違いありません。

 GDP成長率、自由貿易協定を締結した場合の経済効果の予測などは、主流派経済学の理論に則ったモデルで算出されています。そのような意味で、主流派経済学は政策の基盤になっていると言えるでしょう。

 けれども、主流派経済学の理論通りにすべての政策立案をしているというわけではありません。

 自由貿易が経済効率化の一つの手段だと教科書には書かれていますが、現実世界で関税を廃止した国はありません。主流派経済学の理論にぴったりと沿うかたちで経済を回すことが非現実的であるのは明白です。

 ただ、政策を実行するには、各省庁の審議会や閣議決定を経て国会を通過させなければなりません。説得力がなければ、その政策はどこかのプロセスで却下されてしまいます。

 多くの場合、審議会には主流派経済学の学者が参加します。主流派経済学の理論に基づいて政策を正当化し、次のプロセスに進めさせるという仕組みが出来上がっています。

 日本は民主国家です。したがって、最終的に国の政策実行の是非が決まるのは国会です。そして、その判断をしているのは政治家ですが、政治家を選んでいるのは私たち有権者であるという点を忘れてはなりません。

 それでは、有権者はどのようにして票を投じる政党や政治家を決めているのか。おそらく、テレビや新聞、ネットで経済学者や経済アナリストと呼ばれる人たちの発言に、多少なりとも影響されているのではないかと思います。

 テレビで経済学者が「バラマキをやっていると日本経済は破綻する」という旨の発言をすると、その発言がどういう理論に基づいているのかまで考えることなく、そういうものなのだと受け入れてしまっているのではないでしょうか。そして、バラマキをしない政策を打ち出している政党に一票を投じる。

 有権者の多くがそのような姿勢で選挙に臨んでいれば、政策は自ずとバラマキをしない、財政再建を優先する方向に向かっていきます。