「父親と同じになるかもしれない」という恐怖
「人とは、父親の期待に添えるようにと生きているか、父親の失敗を償おうと生きているかだと言った人がいる。私が苦労してきたのは、このせいなのではないだろうか」。バラク・オバマ元大統領が回顧録に書いた言葉である。
イーロン・マスクは、この父親と物理的にも精神的にも距離を置こうと努力してきたが、その影響から逃れられずにいるようだ。気分が明るくなったり暗くなったり、エネルギッシュになったりぼんやりしたり、感情が揺れ動いたり動かなくなったりと行ったり来たりをくり返すのだ。
ときどき「悪魔モード」へ急降下して周囲に恐れられることもある。子どもに優しい点は違うが、そのほかの言動を見るかぎり、危険と戦い続けなければならない。
母親の言葉を借りれば「父親と同じになるかもしれない」危険と戦い続けなければならないのだと思わざるをえない。神話でよく語られるテーマだ。『スター・ウォーズ』でも、ヒーローは、ダース・ベイダーが遺した悪魔を必死ではらい清めなければならない。フォースの暗黒面に必死であらがわなければならない。
「南アフリカで彼のような子ども時代を過ごしたら、感情をシャットダウンする術を身につけるしかないと思います」と最初の妻で、存命の子どものうち5人を産んだジャスティンは言う。「ばかだまぬけだと父親に言われ続けたら、感情が爆発してどうしようもなくなる前にすべてを殺すしかないでしょう」。
