マスクの原点にある「苦しみ」
感情遮断弁があるからイーロン・マスクは冷淡だと言われるのだろう。だが、これがあるから積極的にリスクを取るイノベーターになれたとも言える。ジャスティンは次のようにも語っている。
「恐れも遮断できるんです。でも、恐れを遮断するには、喜びや共感などほかのものも一緒に遮断しないといけないのでしょう」
子ども時代のPTSDで、満たされるのを嫌うようになったのだろう。
「成功をかみしめるとか花の香りを楽しむとか、そういうのは、どうすればいいのかわかっていないのだと思います」
こう言うのは、グライムスという名前で活動する音楽家で、マスクの子ども3人の母親であるクレア・ブーシェイだ。
「人生は痛みの連続だと子ども時代にたたき込まれたのでしょう」
そのとおりだとマスクも同意している。
「私は苦しみが原点なのです。だから、ちょっとやそっとでは痛いと感じなくなりました」
スペースXは打ち上げにこぎ着けたものの初回から3回連続でロケットが爆発してしまうわ、テスラは倒産しかけるわと大変な年になってしまった2008年には、朝、のたうち回って目を覚まし、昔、父親にあんなことを言われた、こんなことを言われたと、ふたり目の妻、タルラ・ライリーに語ることが多かったという。
「同じ言葉を彼自身が使うのも聞いたことがあります。大きく影響されているのです」
昔の記憶を語るとき、心はどこかに消え、鉄色の目の奥に引きこもってしまう感じだったともタルラ・ライリーは指摘している。
「あれはあくまで子ども時代の話だと考えていて、影響されているという意識はなかったようです。でも彼の中には子どものような側面が残っています。成長が止まってしまった側面と言いますか。心のどこかに子ども時代の彼がいるんです。父親の前に立つ子どもが」