規制が形骸化しているメジャー
メジャーでも、リーグと各球団は無許可のライブ配信や動画撮影は禁止している。しかし、在米のMLBジャーナリスト、山田結軌氏は筆者の取材に「規則は形骸化し、悪質なケースでなければ黙認している。権利の保護はもちろん大切だが、自分のスマホで撮影した動画などをファン同士でシェアし、そのことで交流が広がることがファンの拡大や人気をキープしていく上で重要だと考えているのではないか」と実情を解説する。
また、MLBは公式Xに1200万人以上のフォロワーを持ち、ファインプレーやホームランなどを数多くの動画が充実し、ファンがシェアできるようにもしている。メジャーに在籍する日本人選手の情報が中心となるメジャーの日本公式アカウント「MLB Japan」の公式Xも47万人のフォロワーを有し、アカウント上は、ドジャースの大谷翔平選手らのプレーシーンであふれ、最近はオリオールズに移籍した菅野智之投手による日本のファンに向けたメッセージも届く。
一方で、111万人のフォロワーがいるNPBの公式Xではこうした配信はなく、大きな差がある。
メジャーや日本ハムでプレー経験があり、現在はブルージェイズのフロントに在籍する加藤豪将氏は自身のXで、多くの動画がアップされているMLBの公式Xと、試合結果のテキストが羅列されただけのNPBの公式Xを比較するために並べて投稿し、次のようにコメントした。
「NPBの公式Xアカウントの発信力はMLBと比べて非常に乏しく、今までNPBはファンの投稿に頼って無料で自らの価値を広めてきましたが、それさえも今後は許さないというのは腑(ふ)に落ちません」
報道によれば、NPBの中村勝彦事務局長は「このル-ル(規定)は、最初の段階で、不確定要素が多い。まずスタートしてみて、いろんな意見を検討していく」と述べたという。
山田氏も「現状のままでは、ファンの支持を得られない。プロが使うようなカメラ機材を持ち込ませないなど、営利目的を防ぐ対応をした上で、制限を緩和する流れを探っていくことになるだろう」と話す。
制限を緩和するか、ファンがシェア・拡散を楽しめるように公式SNSを充実させていくか。落とし所は必要になってくる。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。