景気後退の初期段階の兆候なし

 トランプ氏の強気を後押ししたのは、4月4日の米労働省の発表だ。

 同省が発表した3月の雇用統計(季節調整済み)によると、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数は前月比22万8000人増だった。

 高関税政策で景気の先行き不透明感が強まっている中、労働市場は底堅さを保っている。

 伸びは2月(11万7000人増、改定)から大幅に拡大。市場予想(13万5000人増)も上回った。ただ、失業率は4.2%と、前月から0.1ポイント上昇した。

 就業者数増の内訳は、ヘルスケア関係が5万4000人、レジャー・接客関係4万3000人、小売業関連2万4000人、運輸・倉庫関係2万3000人となっている。

 この数字から見て、「景気後退の初期段階を示す兆候はまだない」(米シンクタンクのチーフ・エコノミスト、カール・ワインバーグ氏)と見る向きが少なくない。

Trump Celebrates a Major Win as Jobs Report Blows Economists' Expectations Out of the Water

iPhoneもバービーも軒並み値上げ

 とはいえ、相互関税策は早くも米市民の生活にインパクトを与え始めた。筆者の住むロサンゼルス近郊のショッピング・モールを歩いてみた。

 経済観念・金銭感覚を育くんでいる米市民は、なかなかシェブロンやシェル、モービル(現在、1ガロン=4.94ドルほど)といった通常のガソリンスタンドには行かない。

 それよりも安くガソリンを売っているコストコホールセールのガソリンスタンドに行く。

 1セントでも安いガソリンを求めて、ドライバーたちは長い列を作っている。4月3日段階では1ガロン=4. 39ドル。前回より10セント上がっていた。

 相互関税が発動される4月9日(一部関税は4日に発動)にはさらに値上げされると思われる。

 日本から直接輸入された日本車だけでなく、メキシコやカナダで製造され、米国に輸入されている日本車や韓国車も追加関税された分、値上げせざるを得なくなった。

 自動車部品には25%の追加関税が課され、米国産の日本車も値上がりする。

 中国のレアメタル(希少金属)搭載のアップルの 「iPhone 16 Pro Max」は1599ドルから一気に2300ドルに値上がりした。

 テレビ、コンピューター、キーボード、メモリーカード、ハードドライブ、通信機など米消費者が使っている製品の34.5%は中国、台湾などから輸入されている。

 これらすべてに10%の追加課税を課せられたためにその分、高くなったのだ。

 日常品であるコーヒー、チョコレート製品、オリーブオイル、砂糖、米、アボカド、ワイン、スコッチウィスキーなども軒並みに値上げされる。

 女の子にとっては「必需品」のバービーなどオモチャの80%、若者が競って買うスニーカーや安価な衣服の37%が中国製だ。

 中国製品に対する関税のツケはすべて米消費者に回ってくる。

What Will Cost More After Trump’s Tariffs? Coffee, Wine, iPhones Face Price Hikes. 

 かといって、日本車の良さを知った米消費者が直ちにテスラ車を買うかというと、そうはならない。

 億万長者イーロン・マスク氏の「独断専行的な政府予算削減」に反感を持つ米国民がテスラを買うとは思えない。