そう話すビーチ氏は、コロナ禍の2020年11月に、自身初めてとなるインストゥルメンタルのソロアルバム『A View From The Inside』をリリースした。その1曲目は新たにレコーディングされた『Black Magic』。ビーチ氏本人が納得いくまで新しいアレンジを施し、信頼できる各パートのミュージシャンが演奏している。日本の番組でもこちらを使ってほしいとビーチ氏は感じていたそうだ。
「18年ぶりのタイガース優勝」で特番に本人が登場!
そのチャンスは、唐突に訪れることになる。ソロアルバムを発売後、ウィンガーが来日した23年9月は折しもタイガースが優勝……ではない、アレ争いのトップに立っていた時期だ。
初日の9月4日は大阪公演。1985年に道頓堀に投げ込まれたカーネル・サンダースの呪いを避けるかのように平穏を保ちつつ、大阪は静かに熱狂していた。そんな中で、日本で初めて『Black Magic』がライブ演奏され、会場のファンたちは興奮の渦に包まれた――とはいえ、そこにいるのは基本的にロック・ファンだけである。
虎ファンが〈勝利のエンディング〉の作曲者に出会うのは、14日にタイガースがセントラル・リーグ優勝を決めた夜である。ビーチ氏は来日中にサンテレビから取材を受け、『Black Magic』と阪神タイガースの縁について話し、優勝を祝うメッセージを収録していた。
リーグ優勝特別番組で俳優の渡辺謙氏の後にビーチ氏のメッセージが流れると、SNSは「この外国人、誰?」「長髪のおっさん出てきたけど、何の関係や」と騒然。その後に放映された独占インタビューで、やっとあの〈勝利のエンディング〉の作曲者だと明らかになった。
騒然となったのは虎ファンたちだけではない。『A View From The Inside』を販売するマーキー・インコーポレイティド株式会社は、Xで「レブ・ビーチのサンテレビ出演効果でとんでもなく注文が殺到し現在在庫切れ 追加生産中ですので少しお待ちください」とポストした。
同社のレコードレーベルAVALONのチーフディレクター・矢作亮磨氏によると、「とんでもない数」の注文で、前例がないほどだったという。
「ロックなど音楽好きの方だけでなく、野球ファンの方々にもレブ・ビーチの音楽が届いたというのは非常に嬉しいですね。アルバムを丸ごと聴いて、彼の音楽に興味を持って下さると嬉しいです。スポーツと音楽がつながり、どんどん多くの人に広がっていくという音楽の力を見せつけられた思いです。エンターテインメントが私たちにとって大切なものだと実感させられましたね」
「今のご時世では『Black Magic』1曲だったら配信サービスで入手するのではと思っていましたが、こんなにCDでの注文が入るとは思ってもいませんでした。きっと阪神タイガース優勝の記念にと購入した方もおられたのでしょうが、CDという手に取れるもの、実体のあるものを求める方も多いのだと感じました」
実際、同社でもCDの売り上げは伸びているそうだ。アナログレコードが復権したように、実体のある媒体を手にするという「新しさ」を音楽消費者は求めるようになったのかもしれない。