3.先進国の中で一番安定しているのは日本

 このような世界情勢の中で、2月下旬から3月半ばまでの3週間の米国欧州出張中、外交・安保・経済分野の専門家である友人たちから「いま先進国の中で一番安定しているのは日本だね」と何度も言われた。

 3週間前、日本からワシントンD.C.に到着した直後に初めてそれを聞いた時には耳を疑った。

 しかし、その後米欧主要国の政治経済の実態への理解が深まるうちに、確かにそういう要素があるように思えてきた。

 第1に、政権運営が比較的安定している。

 国会が分裂して機能不全に陥ることなく、与野党間で建設的な議論が続いており、予算審議も着々と進んでいる。

 米国では与野党間でのイデオロギー対立が前面に出てしまい、話し合いを通じた歩み寄りによる法案の中身の調整は極めて難しい。

 フランスでは与党が提出した予算案が否決され、2024年12月上旬、ミシェル・バルニエ首相就任後わずか2か月半で内閣総辞職に追い込まれた。

 その後、フランソワ・バイル首相が任命され、組閣し直してようやく予算を通した。しかし、今後も不安定な議会運営が続く見通しである。

 ドイツでもオラフ・ショルツ首相が信任を失い、解散総選挙(2月23日)に追い込まれ、現在第1党となったキリスト教民主同盟のメルツ党首が第3党の社会民主党との連立内閣成立に向けて協議中である。

 隣国韓国では大統領と首相がともに弾劾案が可決され空席のままであり、依然として政権運営の混乱が続いている。

 第2に、日本では極右政党の台頭が見られていない。

 米国、欧州主要国では移民問題に対する不満の高まりを背景に移民排斥をスローガンに掲げる極右勢力が台頭している。

 米国ではトランプ政権が成立するや否や、バイデン政権の不法移民容認、グリーン(環境保護)重視、DEI(diversity多様性、equity公正性、inclusion包括性)重視などリベラルな政策方針が覆され、真逆の方向に舵を切った。

 それと同時に、トランプ大統領はフランスのマリーヌ・ルペン党首が率いる国民連合、ドイツのワイデル共同党首等が率いるAfD(ドイツのための選択肢)などの極右勢力を支援している。

 トランプ大統領を強力に支持するイーロン・マスク氏はAfDのアリス・ワイデル共同党首とX上でライブチャットを開催し、ドイツ国民に向けてAfD支持を呼びかけた。

 仏独両国の国民が米国トランプ政権の支援に影響されて極右勢力に対する支持率を高めたとは見られていないが、極右勢力のリーダーたちは支援を喜んでいる。

 日本では移民問題が深刻化していないほか、グリーン政策やDEIも民意を重視しながら比較的穏健に実施されていることから、極右が台頭する状況になっていない。

 第3に、経済も少しずつ安定を回復しつつある。

 1990年以降、バブル崩壊、金融危機、企業業績の悪化等を背景に、ゼロ成長、ゼロ金利によるゾンビ企業の蔓延、イノベーション意欲の低下、賃金低下など、いわゆる「失われた30年」の状態が続いた。

 しかし、最近の物価上昇、賃金上昇等を背景に、ようやくその長期停滞から抜け出しつつあるように見える。

 ただし、賃金上昇率が消費者物価の上昇率を下回っており、実質賃金の低下基調が続いているため、まだ力強さを欠いている。

 今年も賃金上昇が続き、物価上昇を上回る賃金引上げが実現すれば、徐々に経済の力強さが戻ってくる。

 日本企業は米国でも欧州でも中国でも歓迎されている。

 この機会をとらえて一段と積極的にグローバル展開を進め、1980年代までの日本企業の輝きを回復することを期待したい。