3、GPIの日米共同開発
(1)全般
現用のミサイル防衛システムの迎撃兵器にはそれぞれ対応可能高度がある。
大気圏内用の「地対空誘導弾パトリオット3」(PAC-3)の最大迎撃高度は15キロ、大気圏外用の「イージス弾道ミサイル」(SM-3) と「地上配備迎撃ミサイル」(GBI)の最低迎撃高度は70キロ、同じ大気圏外用の「終末高高度地域防衛ミサイル」(THAAD)の最低可能高度は40キロといわれている。
HGVは、弾道ミサイルなどで大気圏外に打ち上げられ、切り離された後、高度30~80キロ大気圏内をマッハ5〜20の極超音速でスキップや滑空しながら軌道変更しつつ標的に接近、最後はダイブして標的に到達する。
HGVは、大気圏外の宇宙空間に飛び出さずに希薄な大気が残る高高度を飛ぶことにより、弾道ミサイル防衛用の大気圏外迎撃ミサイルであるSM-3とGBIを無力化する。
THAADで対応可能であるが、THAADの迎撃弾頭はサイドスラスターのみで機動するので細かい機動はできても大きく軌道変更することはできない。
このため、跳躍しながら軌道変更して飛んでくるHGVへの対応は困難である。
唯一、PAC-3がHGVに対して有効であるが、最大迎撃高度は15キロと防護範囲が小さい。
そこで、米国は、高度30~80キロでHGVを迎撃可能な新型迎撃兵器の開発を目指した。
それが、滑空段階迎撃ミサイル(GPI)である。
ちなみに、極超音速巡航ミサイル(HCM)については、最終突入時に空気の濃い低空に差し掛かると空気抵抗で急激に速度は落ちてくる。
このため、PAC-3などの対空ミサイルでも対処が可能であるとみられている。
GPIによるHGV迎撃のイメージは下図3の通りである。
図3:GPIによるHGV迎撃のイメージ

(2)滑空段階迎撃ミサイル(GPI)の開発経緯
①米国ミサイル防衛庁(MDA:Missile Defense Agency)が、ロシアと中国が2030年代に保有すると予想されるHGVやHCMに対する防衛構想を2020年8月4日に開かれたシンポジウムで公開した。
構想では翌年に試験が開始される衛星群HBTSSによるセンサー網と、次世代迎撃弾(NGI:Next Generation Interceptor)、滑空段階を迎撃する地域滑空段階兵器システム(RGPWS:Regional Glide Phase Weapon System)で成り立っていた。
②米国MDAが2022年4月13日、超高速ミサイルを迎撃する滑空段階迎撃ミサイル(GPI:Glide Phase Interceptor)計画を開始し、各メーカに海軍のイージスシステムと組み合わせて使用する武器の提案を要求した。
この計画は2022年2月に計画が中止になったMDAのRGPWSに代わる計画である。
③米国MDAが2021年11月20日、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、レイセオンの各社に滑空段階超高速ミサイルを迎撃する局地システムGPIの開発促進を目指した契約を発注した。
④米国MDAは2021年12月1日、極超音速ミサイルの洋上発射型迎撃弾GPI試作弾概念設計を11月19日にロッキード・マーティン (20億9400万ドル)、ノースロップ・グラマン (18億9600万ドル)、レイセオン(90億9700万ドル) に発注したことを明らかにした。
GPIはイージス駆逐艦に装備され、改良された「イージスWeapon System Baseline 9」により垂直発射装置(VLS)から発射される。
⑤MDA長官のジョン・A・ヒル海軍中将は2023年3月15日、国防総省がGPIの開発を加速するため日本の参画を希望し、両国の国防関連企業間で調整を進めていると述べた。
⑥米国防総省が2023年4月21日、MDAに対し、GPIの開発段階への移行を承認したことを明かにした。
⑦日米両国は2023年8月、GPIの共同開発を決定した。日本の防衛省は8月19日、次のプレスリリースを発表した。
「2023年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)において、日米は、将来のインターセプターの共同開発の可能性について議論を開始することで一致した」
「これに基づき、防衛省と米国防総省で検討を行ってきた結果、日米両国は、GPIの共同開発を開始することを決定した」
「我が国周辺では、繰り返しのミサイル発射や極超音速兵器の開発の進展により、我が国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっており、日米両国にとって、極超音速兵器に対する更なる迎撃能力の強化は喫緊の必要性があるものである」
「GPIは、我が国の統合防空ミサイル防衛能力の向上に資するアセットであり、また、日米同盟の抑止力・対処力向上に寄与するものである」
⑧2024年5月3日、共同通信は次のように報道した。
「日米両政府は、極超音速兵器を迎撃するための新型ミサイルの共同開発費が総額30億ドル(約4600億円)を超えるとの推計をまとめた」
「日本は10億ドルを拠出する。米国ミサイル防衛庁(MDA)が2日、明らかにした」
⑨日米両国は、2024年5月15日、防衛省においてGPIの日米共同開発に関するプロジェクト取決め(Project Arrangement)に署名した。
⑩2024年5月23日、米防衛大手ノースロップ・グラマンは、都内でシンポジウムを開催し、GPIの日米共同開発について、同社担当者がメディアやシンクタンク関係者向けに説明した。
その中で、ノースロップ担当者は「日米企業のワークシェア(作業分担比率)はフィフティーフィフティー(五分五分)になる」と明言した。
⑪2024年9月26日、防衛省と米国ミサイル防衛庁(MDA)は、日米共同開発を開始したGPIについて、米国ノースロップ・グラマンの提案するコンセプトを採用することで一致した。
防衛省は同日、次のプレスリリースを発表した。
「日米両国は、2023年8月に共同開発の開始を決定し、2024年5月にはプロジェクト取決めに署名した上で、コンセプトの決定について、日米間で継続的に議論・調整を進めてきた」
「今般、米国2社(レイセオン社及びノースロップ・グラマン社)より提案されたコンセプトの性能、コスト、スケジュール及びリスクを、日米両国がそれぞれの立場から総合的に評価し、採用すべきコンセプトを判断した結果、両国の意見が一致した」
「今後、日米両国は、同コンセプトに基づき、2030年代の開発完了を目指してGPIの日米共同開発を進める」
「防衛省は、同コンセプトに基づき日本が開発を分担することとなる部位について、適切な手続きを経て、設計・製造能力を有する国内企業との契約を進める」
(3)日米共同開発の概要
本項は、防衛省HP「GPI共同開発に係る契約の相手方の決定について」を参考にしている。
防衛省によると、ノースロップ・グラマンが提案したGPIは3段式のミサイルで、イージス艦からの運用を予定している。
まず、「Mk. 72」(第1段ブースター)により、甲板上の垂直発射装置(VLS)から射出される。
第2段、第3段のブースターで加速・上昇した後、キルビークル(破壊飛翔体)が切り離され、これにより目標を破壊する。
また、防衛省によると、3段式のミサイルとなるGPIのうち、日本の開発担当部位は次の通りである。
▲第2段のロケットモーター
▲第3段の操舵装置
▲キルビークルの推進装置および操舵装置
担当部位の詳細は、下図4「日米のGPI開発担当部位」を参照されたい。
図4 日米のGPIの開発分担部位

最終的に、日米で開発・製造した構成品は米国において統合される。
2024年11月11日、防衛省は、GPIの日米共同開発において日本が分担することとなる部位について、三菱重工業と契約したことをプレスリリースで次のとおり発表した。
・契約の件名 GPI共同開発
・契約相手方 三菱重工業
・契約金額 ¥56,045,000,000.
・納期 令和11年3月