一人ひとりのエネルギーを最大化するには?

 たとえば、対戦チームを分析する役割の部員たちが、相手投手のフォームのクセや投球の傾向を見つけたとします。 

 彼らがミーティングでそれを報告すると、「よし、これで攻略できるぞ!」と、みんなでハイタッチする。すると、分析担当の部員たちも「自分もチームの役に立っているんだ」と実感できて、自然に笑顔になるんです。

 そうやってみんなでミーティングを盛り上げると、試合で結果を出した選手が、ベンチ外の部員に「ありがとう」と言えるんですよね。

「あのピッチャーからヒットが打てたのは、お前の分析のおかげだよ」
「いや、打ったのはお前の実力だよ」
「いやいや、傾向がわかってたから打てたんだよ。ホントにありがとな」

 こんなふうに「ありがとう」「お陰さま」という言葉が飛び交うチームになると、陰で支える人たちもますます「次もチームのために働こう」と思ってくれる。一人ひとりのエネルギーが大きくなって、チームは強くなりました。

 野球は「失敗のスポーツ」といわれます。打撃でいえば、3打数1安打で上出来。1試合のうち1、2回はアウトになるのが当たり前です。

 ドジャースの大谷翔平選手は2024年のシーズンに打率3割1分、54本塁打、130打点、59盗塁をマークして2年連続3回目のMVPに輝きました。

 そんな大谷選手でも162個の三振をして、439回アウトになっています。それほど、野球は思いどおりにはいかないスポーツなのです。

 それでも野球選手は「成功率10割」を目指して、工夫と練習を積み重ねます。技術をどんなに極めても、まだまだその先がある。いい意味で、ゴールが見えないことに挑戦し続けているわけです。

 私は小学生の頃に「ボールに対してどうバットを当てれば、どんな打球が飛ぶのか」という感覚をつかみました。

 それは幻みたいなもの。現役を引退するまで毎日毎日、感覚が消えないように練習を重ねました。「消えるなよ、消えるなよ」と思いながら、自分の感覚が確認できるまで1時間でも2時間でもバットを振り続けました。

 私は内角の球を打つのが苦手だったのですが、毎日毎日練習して、ようやく「これだ!」と思える技術にたどり着いたのは、現役最後の年でした。

日本代表時代の飯塚智広さん(写真:共同通信社)日本代表時代の飯塚智広さん(写真:共同通信社)