欧州軍の概念を再び持ち出したゼレンスキー氏

 J.D.バンス米副大統領の演説で大荒れになったミュンヘン安全保障会議に参加したIISSのベン・シュリーア欧州エグゼクティブ・ディレクターは「欧州には、トランプ政権も含め多くの混乱と矛盾したメッセージが飛び交っていると言わざるを得ない」という。

ミュンヘン安全保障会議で演説する米国のバンス副大統領(写真:ロイター/アフロ)
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「欧州ではさまざまな国々が異なる方向に向かっており、足並みが揃っているわけではない。ミュンヘンで再び欧州軍の概念を持ち出したのはゼレンスキー氏だけであり、テーブルを囲んだ欧州の指導者は誰もそれに飛びつかなかった。願望以上のものだったからだ」(シュリーア氏)

「トランプ氏がこれまでに述べてきたことにもかかわらず、米国は今のところNATOからの脱退を表明していない。現段階ではかなりの数の兵力を欧州から撤退させるとは言っていない。ピート・ヘグセス米国防長官もNATOには留まり、同盟関係を強化したいと述べている」(同)

 平和維持軍のウクライナ派遣について、バリー氏は「おそらく英国とフランスはウクライナに3万人の部隊を派遣できるだろう。しかしポーランドはそのような部隊には参加しないと表明している。国連も平和維持活動に必要な兵力を確保することに苦労している」と難しさを指摘する。

 ロシアはウクライナに外国軍が展開されることに断固として反対している。プーチンはウクライナの従属化だけでなく、NATO縮小、核戦力を含む米軍の欧州からの撤退という野望を捨てていない。

 欧州の安全保障に対する米国のコミットメントへの疑問符が一段と大きくなったことで、ウクライナ問題にとどまらず、核抑止を含め、欧州はこれまでよりはるかに大きな負担を背負わなければならなくなる。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。