「位置情報」が重要
酒井:紙の手帳にペンで文字を記入する際、キーボードや指のフリック入力と比べて遅いため、すべては書き取れませんから自然と「要点を抽出する」必要があります。キーボードや指では、聞いたことをそのまま素早く記入できてしまうのとは対照的です。紙とペンでは、ただ入力に徹するのではなく「要点を絞る」という作業のほうに時間を割くため、記憶の定着率を高めて考える余地を生むことになるのです。

紙とペンの場合であれば特に意識することなく、「左下のページにあの予定を書いたな」といった位置の情報も同時に記憶されます。タブレットやスマホはスクロールや別リンクに飛ぶと画面が入れ替わるため、「画面と文字情報」の位置関係がバラバラで、空間的な情報を関連づけて記憶することが難しいのです。
記憶を想起する際には、文字情報だけでなく空間的な位置情報も頼りにしています。「紙」という実体としての存在は大きいのです。その意味で「紙とペンの方が、情報を記憶として定着させやすい」と言えるでしょう。
この実験は「予定を思い出せるかどうか」という短時間の結果でしたが、その効果がもし数週間、数カ月にわたって蓄積していったらどうなるでしょうか。「毎回の授業を、タブレットやキーボードだけ」で受け続ければ、理解や要約よりも入力や操作が優先されてしまいます。この研究から分かるように、「学習内容を覚えにくく、考える力が低下する」ことになると予想されます。
──脳科学的に見て、キーボードやフリックによる入力は手書きとは意味合いが異なるということですね。